44: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 02:56:45.65 ID:zJUkddjZ0
※ ※ ※
あれからどれぐらい時間がたっただろうか。空を見れば、日が沈みかけている。茜色の空から降り注ぐ日差しはまだ暖かく、まるで今の私の胸の心境のようだった。
45: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 02:57:20.58 ID:zJUkddjZ0
ある考えが閃いた。あれほど強く鮮烈なイメージが見える人なら、離れていてもわかるかもしれない。
多分あれから経った時間は三時間ぐらいだろう。山のふもとにある街に彼はいるかもしれない。
その時、私はワクワクしていた。これだけ離れていても彼がわかるのなら、彼の意志が強いだけでじゃなくて、波長まで合っていることになるかもしれなかったから。
46: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 02:59:19.49 ID:zJUkddjZ0
〜第二章 逸脱の始まり〜
47: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:00:02.27 ID:zJUkddjZ0
足元にあった拳ほどの大きさの石を拾うと、両手で顔をかばう発起人に飛びかかり、何度も何度も腕の上から石を叩きつけた。やがて腕がダランと下がると、今度は頭に振り下ろし、目をつぶし鼻をつぶし口をつぶした。
そして男の息が止まると同時に、石を振り下ろすのを止めた。
そうしてしばらくの間、引き続いて俺は腫物を触るように扱われた。俺を排除しようにも、一人や二人でやる勇気が奴らには無かった。それ以上の数となると、まとめる者が必要となる。発起人の無残な死に方を知らない住人は誰もおらず、そんなことを引き受けようとする奴もいなかった。
48: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:00:35.93 ID:zJUkddjZ0
※ ※ ※
「……ふん」
49: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:01:09.71 ID:zJUkddjZ0
海千山千の店員と、ガラの悪い男たちが一階にたむろっていたが、修羅場を経験しているだけあって今は息を押し殺している。本当は駆け出して逃げたいのだろうが、それができない事情もあるのだろう。そいつらを意も介さず、重量のある物体が宿に入り、そして階段へと向かう。
腰かけていたベッドから立ち上がりながらため息をつく。正直、もう少し思索にふけっていたかった。彼女について考えていたかった。
革鎧を身に着けながら耳を澄ませていると、階段を上がる音が奇妙なことに気づく。ズルリベチャリと、湿ったような音。粘度が高いものを階段から下に零した時の音を、階段を上がりながら立てているかのようだった。
50: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:01:56.22 ID:zJUkddjZ0
魔に心を呑まれたモノ、“深緑”のア―ソン。
今からたしか二年ほど前。南西の小さな村で、住民全員が緑色に膨れ上がって死んでいる事件があった。悪臭が漂う中での調査で、村の名簿七十六人に対して死体が七十五であることがわかる。見つかっていないのが誰なのか調べようにも、死体はどれも誰であったかわからない惨状で、村に何度も出入りしている行商人に立ち会わせても見分けがつかなかった。しかし行商人は、村の嫌われ者ア―ソンが怪しいと思うと衛兵に告げる。
捜査には教会も協力していて、捜査結果からア―ソンが魔に心を呑まれたと判断を下し、聖騎士ベンジャミンに討伐を命じた。
51: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:02:35.17 ID:zJUkddjZ0
ア―ソンは首を斜め後ろに逸らして刃をかわす。しかし切っ先は肉を斬ることはできなかったが、醜い心情を言い表す汚らしい穴を覆うシュマグを破いた。
「ソウ……興奮スルナ。私ダッテ……興奮シテ、イルンダ」
二股に別れた舌を別の生き物のように動かしながら、それはベチャリベチャリと大きな音を立てて舌なめずりをする。少し視線を下にやれば、奴の股ぐらが馬のソレのように膨らみ、蛇のように蠢いていた。
52: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:03:15.88 ID:zJUkddjZ0
既にこの周辺は俺とア―ソンの殺気と狂気で充満し、はじける寸前の状態だった。そこに新たに、針で刺すような鋭い殺意が突如現れた。
それと同時に、下の階から逃げ出そうとしていた三人があっけなく命を散らしたことがわかる。
辺りが静まり返る中で、階段をゆっくりと上がる音が近づいてくる。
53: ◆SbXzuGhlwpak[sage]
2019/06/01(土) 03:03:49.20 ID:zJUkddjZ0
希代の名工アレッサンドロの遺作にして怪作、さらには最大の失敗作と評せられた槍。
それが皆殺朱。
長さはおよそ三メートルだが三段式となっており、握りの部分を操作しながら動かすことによってその射程は五メートル、七メートルと変化する。これにより戦況に応じた長さに変化させることが狙いだった。
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