水本ゆかり「人形の檻」【ゆかさえ】
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53: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 11:07:15.17 ID:iX/HvtXE0
「心当たり、ないん?」
「……分かり、ません」
54: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 11:08:18.23 ID:iX/HvtXE0
横で、紗枝ちゃんが身体をこちらへ密着させながら、私の手をうやうやしく取って眺めだした。
彼女はまるで高価なブランドものの服を試着するように、その細い指で私の手のひらを優しく、注意深くなぞっている。
私の指のひとつひとつに彼女の指が絡まる。
すると、そこだけが奇妙に熱を帯びたように、私と紗枝ちゃんとを結ぶ手のひらにじっとりと汗が滲みだす。
55: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 11:08:46.71 ID:iX/HvtXE0
まぶしい月明かりに照らされた夜の海のように、漆黒に輝いていた。
その深い暗闇の奥底に、未知の、巨大な気配を湛えながら、何も知らない小船を波に揺らしている二つの瞳……
それが彼女の正体なのだった。
56: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 11:10:03.58 ID:iX/HvtXE0
頭のてっぺんから鈍い衝撃が内臓を貫き、息ができなくなった。
私は瞬きもせず、彼女の黒い瞳を見つめ返しながら、燃えるような熱が身体の内側に沸き立つのを感じた。
彼女の柔らかさが、そこに触れている唇の感覚を通して私の全てを包み込んだ。
四肢は麻痺したように動かず、そのために私はこの熱く濡れた唇の純粋に甘い快楽だけを徐々に、そしてはっきりと味わった。
57: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 11:10:37.43 ID:iX/HvtXE0
七
翌朝、ベッドの中で目を覚ました。
58: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 11:12:25.34 ID:iX/HvtXE0
やがて彼女は、私を真上から覗き込むように身体を動かし、うっとりした表情で見つめだした。
小さなかわいらしい顔が私の目の前に浮かんでいる。
お互いの熱い吐息がすぐ口元で混ざりあう。
59: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 11:13:56.08 ID:iX/HvtXE0
二度目のキスは激しかった。
剥き出しの愛欲が私の唇に注がれ、それがあまりに劇的で情熱的だったので、私は思わず声を出し、のけぞるように枕に頭をうずめた。
60: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 11:15:01.24 ID:iX/HvtXE0
……彼女が息苦しそうに目をつぶり、涎の糸を引かせながら唇を離した。
そうしてそのまま崩れるように私の上に倒れかかる。
私たちは激しい運動をした後のように息を荒くして、しばらくベッドの上でぐったりと抱き合った。
61: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 11:15:42.96 ID:iX/HvtXE0
――その日、私は午前中にフルートのレッスンの予定が入っていた。
しかし結局、あのあと紗枝ちゃんと二人で寮のお風呂に入って、それがまた思いがけず長引いたので、寮を出発したのは予定より三〇分以上も遅れてからだった。
62: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 11:17:18.76 ID:iX/HvtXE0
「……はい。昨日、本番の撮影でした」
帰りがけ、先生と雑談した際に、例のドラマの話題になった。
63: ◆wsnmryEd4g[saga]
2020/10/18(日) 11:18:11.18 ID:iX/HvtXE0
八
これらの夏の一切が私たちをすっかり新しい生き物へと変えてしまった。
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