1:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage]
2014/02/15(土) 00:19:23.38 ID:lf+VB/Zqo
彼女――渋谷凛はライブ前、とても静かだ。
同じユニットのメンバーである加蓮と奈緒が二人で話しているのに対し
凛はそれに参加することはない。落ち着いた、人によっては冷たいとも
取れるまなざしでお気に入りのアクセサリーを握り、どこかを見ている。
以前、プロデューサーが彼女にこの時について聞いたことがある。
「凛はいつもライブ前は落ち着いてるな。緊張とかしないのか?」
「落ち着いてないし、緊張してるから」
「でも加蓮とか奈緒みたいに緊張を解すために会話とかしないだろう」
「うん。あの二人はいつも通りの会話をしていつも通りの練習と同じよ
うにやるようにしてるらしいけど私はそれが性に合わないみたいだか
らさ。イメージしてる」
「イメージ?」
「そう。私達がステージの上で最高のライブをしているところをね
彼女たちのライブは未熟であるわけではない。むしろトップクラスと言
って過言ではない。事実、それは結果として現れている。
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2014/02/15(土) 00:19:52.38 ID:lf+VB/Zqo
一週間に一回行われるライブバトル。それを見たファンたちはアンケー
トに記入をし、アイドルのランキングをつける。アイドルランキングア
ワードと呼ばれているものだ。発表されるのはトップ十位までだが凛と
加蓮、奈緒の三人ユニット、トライアドプリムスの名は常連の一つなのだ。
3:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage]
2014/02/15(土) 00:20:23.48 ID:lf+VB/Zqo
「泰葉。一位のご褒美をやろう。何がいい?」
「別に何もいりません」
泰葉は読んでいる本から目も話さずに担当の言葉に答える。彼はため息
を漏らして、聞こえよがしに呟く。
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2014/02/15(土) 00:20:49.78 ID:lf+VB/Zqo
「よし、そうだな。最近調子がいいトライアドプリムスの話とか会場で
ゴキブリが発見されたとか……」
「それは面白くないですよ。ライバルの話なんてされても……」
「でもそのトライアドプリムスの……渋谷凛か。あの子、一位の座を狙っ
てるって専らの話だぜ?」
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2014/02/15(土) 00:21:16.50 ID:lf+VB/Zqo
プロデューサーに取ってもらったビデオを凛は見返す。内容は前回のライ
ブバトルのものだ。プロデューサーは最近多忙でレッスン場に来ることも
ないのだが、どうしてもライブバトルのビデオは欲しかったので凛がお願
いしたのだ。ちひろに代役を頼まなかったからプロデューサーも見たかっ
たのかもしれない。
6:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage]
2014/02/15(土) 00:21:46.43 ID:lf+VB/Zqo
「なぁ凛。今日は貴重な、きちょおおぉぉな一日休みなんだぜ? 今日ぐ
らいゆっくりしてもいいんじゃないか?」
奈緒は貴重を強調して凛を説得する。
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2014/02/15(土) 00:22:12.54 ID:lf+VB/Zqo
「私、そんなにおかしい?」
「まぁな。前よりかなんというか……トップアイドルって名前に固執して
る感じがするな」
「でも悔しくない? 一度も勝ったことないんだよ」
「悔しいかどうかか……」
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2014/02/15(土) 00:22:38.53 ID:lf+VB/Zqo
凛の頭に黒い考えが横切る。
自分がこれだけ頑張っているのに、悔しいと思っているのに。
なぜ勝つことが出来ないのか。
もしかしてこの二人が足を引っ張っているからじゃないのか。
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2014/02/15(土) 00:23:05.77 ID:lf+VB/Zqo
いくつかの扉を抜け、階段を上り下りし、凛は気付けば普段は来ないよう
な場所にいた。しかし走ったおかげで頭は冷静になっていた。いや、冷静
になったと自分に言い聞かせているだけかもしれない。
歩きながら今後のことを考える。まずは……自分の力がどれほどのものか。
10:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage]
2014/02/15(土) 00:23:38.51 ID:lf+VB/Zqo
「ということで来週は凛ソロと加蓮奈緒の二人組みでライブバトルします」
そう説明するプロデューサーと涼しげな顔をした凛。
そして半目でプロデューサーを見る加蓮と奈緒。ため息をつくちひろ。
11:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage]
2014/02/15(土) 00:24:05.90 ID:lf+VB/Zqo
凛にせっつかれてプロデューサーが連絡をし始める。それを見ていた奈緒と
加蓮が顔を見合わせる。普段から頼りがいがあるとは思っていなかったがこ
うもアイドルの尻に敷かれているのを見ると自分達の将来まで心配になってくる。
「二十分後にダンスの練習できるってさ。第三練習場な」
12:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage]
2014/02/15(土) 00:24:41.47 ID:lf+VB/Zqo
プロデューサーが平然としているのは凛が今溜めているガスを今回のライブ
で抜けばいいと考えているからだ。
しかしそうまでわかっていても奈緒はどうしても不服に思ってしまう。
「プロデューサーならうまい落とし所を見つけてくれると思ったんだけどな」
13:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage]
2014/02/15(土) 00:25:07.60 ID:lf+VB/Zqo
こうしてみるとレッスン場は普段より広く、そして寒々しく感じられる。実際
には冷暖房がついているので暑い寒いということはない。今も動いた後なので
体は暑いくらいなのだ。それなのにどうしてこんなに寒く感じるのか。
「一週間とは言え、かなりのレッスン量をこなしたし、君には元々の能力があ
14:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage]
2014/02/15(土) 00:25:47.12 ID:lf+VB/Zqo
奈緒と加蓮のユニット、ツインスターはなかなか好評で観客の声援も舞台袖ま
で聞こえてくる。凛はいつもと同じようにお気に入りの蒼いアクセサリーを握
ってイメージする。しかしどうにも定まらない。普段なら気にならない声援が
今日は耳に付いてしまう。もうすぐツインスターのライブが終わり、自分の番
が来る。それなのにイメージは雲散霧消してしまった。なぜ自分がライブをや
15:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage]
2014/02/15(土) 00:26:13.69 ID:lf+VB/Zqo
案の定と言うべきなのか。凛の名前はランキングになく、ツインスターの名前
はギリギリの順位に残っていた。そして一位にはいつも通りの名前が乗ってい
た。来週にはツインスターの名前もなくなり、トライアドプリムスの名前がラ
ンキングに戻る。また変わらぬ日常が戻ってくる。ランキングを後にして、事
務所に向かうことにした。
16:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage]
2014/02/15(土) 00:26:39.83 ID:lf+VB/Zqo
「どうしても教えてくれないんですか」
「どうしても教えることは出来ない」
とある事務所の前で凛とその事務所のプロデューサーが対立する。
泰葉の引退を知った凛はどうしてアイドルをやめるのか聞きたくなり、かつて
17:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage]
2014/02/15(土) 00:27:06.56 ID:lf+VB/Zqo
「泰葉が何週間一位だったか知ってるかい?」
案内された部屋の椅子に座るとそれまで無言だったプロデューサーは話し始めた。
「いえ……でも私がアイドルを始めて一年間はずっと一位だったと思います」
18:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage]
2014/02/15(土) 00:27:33.47 ID:lf+VB/Zqo
彼女の苦痛を今の凛が分かち合うことは出来ない。少し前まで凛も苦しんでは
いたが彼女の比ではないだろう。そんな重圧の中で凛はステージで踊り、微笑
むことは出来るだろうか。
カン、と何かが落ちる音がした。階段を下っているときに何か落としたのかと
19:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage]
2014/02/15(土) 00:27:59.60 ID:lf+VB/Zqo
「え、何」
「いいから」
引っ張られるがままに暗い廊下を走っていく。後ろから聞こえてくる足音は段
々と遠くなりそのうち聞こえなくなった。
20:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage]
2014/02/15(土) 00:29:01.55 ID:lf+VB/Zqo
数日後。作戦は決行された。作戦とは言うものの事はとても単純なものだ。
当日。幼いほうの凛が普通の凛として事務所に向かう。そしてお昼時になった
ら他の二人とプロデューサー、そしてちひろを連れ出すというものだ。おそらく
中に無人となったら事務所のカギは閉められる。なので普通の凛は前日より事務
所の凛専用ロッカー内に潜む事になった。もしも二人の凛が同時に見つかったら
21:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[sage]
2014/02/15(土) 00:29:27.82 ID:lf+VB/Zqo
「え……?」
凛はファイルのページを一気に捲る。そして投げ捨てて次のファイルも取り出す。
それも同じように捲り、投げ捨てる。また次のを取り出す。
31Res/39.19 KB
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