1:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/13(日) 22:00:24.55 ID:7G5TlUsCo
嘘嫌いや短編集よりもわりと前の話
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2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/13(日) 22:01:12.23 ID:7G5TlUsCo
老魔女ヘレナは不機嫌だった。
もともと気難しい性格というのも大きいが、他にも理由はあって一つ一つ挙げていけばきりがない。
住居にしている風車小屋の機構がうるさくてよく眠れていないのもあるしこの頃腰やら肩やらが痛むのも気に入らない。
目が弱ったせいで本を読むのにも苦労しだすとイライラは最高潮に達した。
3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/13(日) 22:02:15.72 ID:7G5TlUsCo
ヘレナは冷たく返して孫娘をじろじろと観察した。
「すりむいたのはここだよ?」
そう言って彼女が見せてくる肘を、しかしヘレナは見ていなかった。
「どこだい?」
4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/13(日) 22:02:51.97 ID:7G5TlUsCo
「そう、いい子だ」
ヘレナがうなずくともう傷の痛みやらを忘れたかのようにミナは「あたしいい子!」と笑った。
ヘレナの頬がひきつるがそれには気づかなかったようだ。
5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/13(日) 22:03:40.38 ID:7G5TlUsCo
ぱたたたと逃げ出していく孫娘の背中を眺めながらヘレナは深くため息をついた。
ヘレナの不機嫌の最大にして最後の理由。孫娘の深刻な不出来。
自らの老いも強敵だが、これもまたなんともしがたい頭痛の種なのだった。
6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/14(月) 17:53:49.55 ID:PeQPCDngo
魔女は魔法とともにある。
……などと下手に大仰な言い回しは気に食わない。ヘレナは常々そう思っている。
そもそも自分たちが『魔女』と呼ばれるのは魔法と切り離せない関係にあるからであって、分かり切ったことをわざわざ繰り返す必要はないのだから。
7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/14(月) 17:55:00.19 ID:PeQPCDngo
魔法はそれそのもので生きているかのようだ、とは魔女がよく言う言い回しだ。
魔法は魔女の道具ではない。
世の底にあまねく流れる法則ならざる法則と言われることもあるが、あまり信用ならない力持ちとヘレナは呼んでいる。
うまく利用すれば役に立つ、馬鹿と鋏はなんとやら。
8:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/14(月) 17:57:24.71 ID:PeQPCDngo
「……これは一体どういうことだい?」
数日現場から離れていた間に、普通の邸宅になるはずだった住居にはいくつもの風車が『不思議なことに』取り付けられていた。
彼女の質問には誰も答えることができなかった。
誰も故意にやったのではなくいつの間にかそうなっていたのだから当然といえば当然のことだが。
9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2014/07/14(月) 19:05:57.33 ID:HbO6dzrK0
乙
このシリーズ好きだったから期待
10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/14(月) 21:50:43.33 ID:PeQPCDngo
孫娘はどうやらあの後近くの川の水で肘の傷を洗うことを思いついたらしかった。
まあそれはいい。
化膿しても困るのでむしろあの鈍い頭で思いついたことを褒めてやりたいくらいだ。
11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/14(月) 21:51:26.39 ID:PeQPCDngo
優しさだけが取り柄の男だった。
ヘレナがかつての夫を思い出すときに真っ先に浮かぶ文言だ。
その通り優しいだけの頭のゆるい男だった。
12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/14(月) 21:52:19.30 ID:PeQPCDngo
娘のキーナの夫になったのも似たような若者だった。
いやアレにそそっかしさを足したさらに救えない男だった。
だが娘はそこがいいのだとほざくのだ。
「なんかほっとけないじゃない」
13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/15(火) 18:37:57.72 ID:eOhLbTZvo
「ミナ!」
ヘレナが呼ぶとミナは「お婆ちゃーん!」と歓声を挙げた。
なあにがお婆ちゃんだ。ヘレナは苦々しく口を歪ませた。
一応は師匠と弟子なのだからもっとふさわしい呼び方があるだろうに。
14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/15(火) 18:38:32.65 ID:eOhLbTZvo
「そんな、やだよー」
ミナはびしょ濡れのまま取りすがってくる。
「絵本よんで。お歌うたって」
孫娘の手の湿り気から退避しながらヘレナは首を振った。
15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/15(火) 18:39:10.75 ID:eOhLbTZvo
視線の高さを少女に合わせてしばし見つめ合う。
「それならよし」
「やったぁ!」
小躍りを始めるミナにヘレナは発破をかけた。
16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/15(火) 18:39:39.82 ID:eOhLbTZvo
それからしばらくはミナも真面目だった。
他のもっと楽しいことに惑わされることなく魔法の訓練、つまりは探し物に専念していた。
……だからといってそれに結果が伴うわけでもなかったが。
17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/15(火) 18:40:11.26 ID:eOhLbTZvo
「探し物はこれじゃあない」
「なんで? きれいなのに」
「綺麗だがこれじゃない」
「お婆ちゃんはこの石嫌い?」
18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/15(火) 22:01:07.83 ID:eOhLbTZvo
その次の日もそのまた次の日も探し物は見つからなかった。
いよいよヘレナは不安になってきた。
この子には魔女としての資質が皆無なのではなかろうか。
とうとう癇癪を起して探索の放棄を宣言した孫娘(「もうやだー!」)を前に、ヘレナはそんな危惧を抱いた。
19:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/15(火) 22:01:42.81 ID:eOhLbTZvo
魔女は魔法という不思議を味方につける。
なくなったものがあれば『不思議と』分かるし、見つけようと思えば『不思議と』見つかる。
そういうものだ。それが魔女なのだ。
だからそれができないミナは魔女ではない。と、必然的にそうなる。
20:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/15(火) 22:02:12.40 ID:eOhLbTZvo
うー。ミナは目の前の憎き偏屈老婆を見上げて唸りをあげた。
十秒ほども睨み合いが続いただろうか、ミナは最後に一声叫んでこちらに背を向けた。
「お婆ちゃんの大馬鹿モニャラミミズーッ!」
21:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2014/07/16(水) 00:58:11.76 ID:j9ltMIbK0
乙
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