過去ログ - 唯「天使再来襲」
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1:名無しNIPPER[sage saga]
2016/04/17(日) 22:43:03.19 ID:skFt6CMPo
けいおんのSSです

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2:名無しNIPPER[sage saga]
2016/04/17(日) 22:44:18.60 ID:skFt6CMPo


バリケードに最後の思い出をむりやり押し込むと、やるべきことはなにもなくなってしまった。
通学カバン、机が4つに椅子が6つ、オルガン、ソファー、譜面台、動物の着ぐるみ、さわちゃんが集めてきた服たち、ホワイトボード、食器棚、ティーカップ。
引っ越しの時みたいに部屋は空っぽで、ほこりやちりが舞っていた。夕暮れできらめく。
以下略



3:名無しNIPPER[sage saga]
2016/04/17(日) 22:44:58.48 ID:skFt6CMPo
「わたし様子を見てこようかしら」

しばらくあとでムギちゃんが言った。
もちろん残りの3人の頭の中には、ホラー映画なんかだとそうやってひとりで動く子はたいてい殺されちゃうんだよねっていう冗談の結句は浮かんでいたけど、やっぱりみんな黙っていた。
ムギちゃんは、はあ、とため息をついた。
以下略



4:名無しNIPPER[sage saga]
2016/04/17(日) 22:45:46.59 ID:skFt6CMPo


わたしたちはあずにゃんだけを残して卒業しようとしたので、悲しんだあずにゃんは時間を凍結してしまった。
あずにゃんはわたしたちにとって天使だった。
それはたったひとりの後輩だったってことで、わたしたちはあずにゃんにやさしくして、いろんなことを教えて、特別な名前を付けて、とっても大事に扱った。まるで天使みたいだって感じに。
以下略



5:名無しNIPPER[sage saga]
2016/04/17(日) 22:46:17.07 ID:skFt6CMPo
「だけどなんで気がつけなかったんだ?」

天使たちがはじめてこの町に降りはじめたとき、りっちゃんが部室で言ったのとまったく同じことを、人々は口にした。
屋根の先がとがった協会に通う人たちは、終末の予言は聖書にちゃんと書いてあるのになぜ気がつかなかったのかと言い、作家たちは、地が死者であふれかえりその結果死者たちが蘇る話は無数にあるのにどうしてそれがわからなかったのかと頭を抱え、環境主義者たちは、空気がそのうち死んだ人でいっぱいになってしまうのはわかっていたはずのことなのになぜなにもできなかったのかと嘆き、わたしたちは、いつか卒業したらあずにゃんはひとりになっちゃうって知ってたのにどうして知らないふりをしてたんだろうって考えた。
それはまとめていえば、こういうことだ。
以下略



6:名無しNIPPER[sage saga]
2016/04/17(日) 22:46:45.63 ID:skFt6CMPo


部室から出て学校をあとにすると、天使たちが降っていた。
天使たちは天国からそれぞれちがった格好で落ちてくる。
気を付けの姿勢で落ちてくるものいれば、体育座りしているものもいて、天使のくせに涅槃の格好もするし座禅だって組む、セクシーなポーズをとってることとか、羽があるのに手をぱたぱた振っていることもあって、なかには頭から落ちてくるのもいる。
以下略



7:名無しNIPPER[sage saga]
2016/04/17(日) 22:47:25.72 ID:skFt6CMPo
降ってきた天使たちは、しばらくそのまま地面に張りついているけど、やがて立ち上がり、歩き出す。
首はぐらぐら、手はぶらぶら、膝からは下はあらぬ方向に曲がってて、つま先は背中をむき、びっこを引いている。外から見ても骨がぐちゃぐちゃになってしまっているというのがよくわかる。
死人が痛みを感じないように、天使たちにも痛覚がないのだ。
わたしたちは強化傘を開いた。
それが蛍光灯よりもずっと白い色をしているのは、万が一天使がそこにぶつかってもその跡が目立たないようにするためだ。実際、町中の道路や屋根の上には、たくさんの天使の白い染みがこびりついていて、羽が秋の落ち葉のように舞っている。
以下略



8:名無しNIPPER[sage saga]
2016/04/17(日) 22:47:57.90 ID:skFt6CMPo
「わたしアメリカに行くと思うのね」

帰り道、別れ際にムギちゃんが言った。

「アメリカ?」
以下略



9:名無しNIPPER[sage saga]
2016/04/17(日) 22:48:38.06 ID:skFt6CMPo
りっちゃんは天使が大嫌いだったのだ。
それはお父さんが、天使に頭をぶつけて死んだからなんだろうな。たぶん。
りっちゃんのお父さんは、天使が降りはじめた最初の日、駅で傘を広げた瞬間(雨が降ってたのだ)傘ごと押しつぶされて死んだ。傘の鉄骨は、りっちゃんのお父さんの骨とおんなじくらいぐにゃぐにゃに曲がっていた。
その日から、りっちゃんのお母さんはちょっと頭が変になって(天使が頭にかすったんだとりっちゃんは言う)それ以来《聖・天使教会》に通ってお祈りを続けている。《聖・天使教会》は天使が降りはじめてから現れた新興宗教団体で、天使を神様が人々を救うために地上に使わしたものだと解釈する。解釈の内容は(りっちゃんに聞いた話では)わりとこまごましているらしいけど、すべきことは単純明快で流れ星するみたいに天使にお願いごとをするのだ。どうして、りっちゃんのお母さんが天使を憎むんじゃなくて、代わりに崇めて大切にしてお祈りまでするようになったのか、わたしにはよくわからない。
そういうわけでりっちゃんの家にはいつも弟とりっちゃんのふたりしかいない。
以下略



10:名無しNIPPER[sage saga]
2016/04/17(日) 22:49:24.48 ID:skFt6CMPo
「でもなんで急に?」

わたしは聞いてみた。
ムギちゃんが言った。

以下略



11:名無しNIPPER[sage saga]
2016/04/17(日) 22:50:08.47 ID:skFt6CMPo

「向こういったら、手紙、書くね」

ムギちゃんが言った。

以下略



12:名無しNIPPER[sage saga]
2016/04/17(日) 22:50:49.05 ID:skFt6CMPo


ひとりの天使が誰かの家をノックしていた。
りっちゃんたちと別れて、家までの最後の直線を早歩きであるいてたとき。
空には天国が浮かんでいる。
以下略



13:名無しNIPPER[sage saga]
2016/04/17(日) 22:51:37.96 ID:skFt6CMPo

さっきの天使が結局あの家を開けてもらえなかったんだろうか、わたしの方向に歩いてきた。
顔は右に75度曲がってて、腕はだらんと下に垂れ、背骨が折れてるんだろうかひどく猫背になっている。両足を背中側に投げ出して膝で進んでいるせいで、天使の衣装である長くて白い半透明のローブがずっと後ろから地面をひきずってついてくる。
新婦入場。じゃなきゃ、なめくじ。
珍しい光景じゃないけど実際ちょっとびびる。
以下略



14:名無しNIPPER[sage saga]
2016/04/17(日) 22:52:15.38 ID:skFt6CMPo

ふぅ、と息をついた。
わたしは天使からの贈り物を断れない。
優しいのだ。
猫が庭を荒らすから餌をやるなと言われてもお菓子をあげたり、鯉に餌をあげないでくださいと書いてあってもパンを投げる。
以下略



15:名無しNIPPER[sage saga]
2016/04/17(日) 22:52:45.46 ID:skFt6CMPo


夕ご飯のあとお父さんとお母さんは喧嘩をはじめた。
雨が降る前に黒雲が集まるように、天使が降る前に天国が現れるように、前々から兆候はあったのだ。
前は家族4人で夕ご飯を食べたりなんかはしなかった。
以下略



16:名無しNIPPER[sage saga]
2016/04/17(日) 22:53:25.79 ID:skFt6CMPo

そして、今日、たまたま庭に降ってきたおばあちゃん、つまりお母さんのお母さんを、お父さんが箒ではいて道に捨ててしまったことをきっかけに、こどもユニセフ的停戦状態も終わりを告げたようだった。

「なんであんなことをしたの?」

以下略



17:名無しNIPPER[sage saga]
2016/04/17(日) 22:53:55.31 ID:skFt6CMPo

TVはニュースを喋っている。
天気予報のコーナーになった。
『……天国はいまも近畿地方を中心に拡大を続けながら少しずつ北上中です。気象庁は、拡大の速度は緩やかな減衰傾向にあるため今後は収縮に向かうだろうという予測を示した上で、実際に今後どういった動きを見せるのかは調査中だと発表しました。また、フィリピン、韓国、中国の一部では、天使の目撃情報が現れていますが、十分な証拠が発見されないため、各国政府はいまのところこれらは宗教的な……』
わたしはとろろ醤油を白米にかけているところだった。
以下略



18:名無しNIPPER[sage saga]
2016/04/17(日) 22:54:58.38 ID:skFt6CMPo

「ざあざあざあね」

「え?」

以下略



19:名無しNIPPER[sage saga]
2016/04/17(日) 22:55:46.18 ID:skFt6CMPo

ざあざあざあ。
憂は洗い終わったお皿を水切りに並べていった。小さな水切りにはすでに乾いた食器が並んでいて、そこに今洗ったばかりの食器たちがうまい具合にあいだあいだに入ってきれいに積まれいていくのは、なんだか憂にしかわからない迷路をたどっているって感じだった。白い憂の秘密のお城みたいな。
きゅっ。
蛇口を閉じて、黄色いリラックマのタオルで水滴を拭ってから憂は言った。
以下略



20:名無しNIPPER[sage saga]
2016/04/17(日) 22:56:22.57 ID:skFt6CMPo

扉越しに金切り声が聞こえてきた。
天使たちの襲撃音がつつましやかに聞こえるくらい大きな騒音。
リビング・ワーはまだ続いている。
ヒステリーは幾何級数的に増大している。
以下略



21:名無しNIPPER[sage saga]
2016/04/17(日) 22:57:12.01 ID:skFt6CMPo



市民公園にはすでに天使が何人かいるようだった。
わたしはベンチに座ってて、その真向かいにある噴水のところにひとり。自販機の後ろの木立がときどき揺れるからたぶんそこにもいるだろう。
以下略



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