1: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/10/21(金) 06:06:37.46 ID:KNNRsk+y0
 
  月が出ていた。 
  
  白く、欠けの無い月だった。 
  
  月明りが一本の長い田舎道と、そこに沿って生えるススキの群れを、柔らかな光で照らし出していた。 
  
  さわさわとススキを鳴らす夜風に乗って、虫たちの合唱が聞こえる夜道。 
 「満月ですよ」と、アスファルトで舗装された歩道を行く高垣楓が、夜空を見上げて呟いた。 
  
  
 「満月ですよ。プロデューサー」 
  
 「ええ、満月ですね」 
  
 「本当に、見事なまぁるいお月さま」 
  
 「綺麗なもんです」 
  
 「こんな月光の下で飲む酒は……けっこういいぞ、プロデューサー」
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2: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/10/21(金) 06:10:12.96 ID:KNNRsk+y0
  
  楓がくすくすと笑いながらそう言うと、彼女の前を歩いていた、プロデューサーと呼ばれた男が振り返って聞いた。 
  
 「何です、それ?」 
  
3: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/10/21(金) 06:13:03.03 ID:KNNRsk+y0
  
  ちなみに、黒いスーツ姿の男の方は彼女を担当するプロデューサー。 
  こちらについては、特に特筆すべきことも無いので割愛……話を戻そう。 
  
  
4: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/10/21(金) 06:14:41.29 ID:KNNRsk+y0
  
  以前は沖縄、その次は確か北海道。 
  珍しく海外にロケへ行った時でさえ、楓は同じような手で騙されていた。 
  
  つまり、それがどういうことかと言うと。 
5: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/10/21(金) 06:16:46.15 ID:KNNRsk+y0
  
 「どうりで、変だなとは思ったんです。なんでわざわざ、タクシーだって途中で降りて…… 
  気づけばこんな寂しいいあぜ道を、遠回りみたいに歩かされてるのか」 
  
 「タクシーで直接宿に帰ると、そのままゴネ倒されるのは前回の経験で分かってましたからね。 
6: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/10/21(金) 06:17:38.08 ID:KNNRsk+y0
 >>5訂正 
 × 子供のように口を尖らせ、自分を非難する楓に対し、プロデューは呆れたようにため息をついた。 
 ○ 子供のように口を尖らせ、自分を非難する楓に対し、プロデューサーは呆れたようにため息をついた。 
7: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/10/21(金) 06:19:30.54 ID:KNNRsk+y0
  
  明日の仕事に響かぬように、アイドルの体調……もとい、飲酒量を管理するのも、 
  マネージャー兼プロデューサーである自分の務め。 
  
  その為には、多少の方便だって使って見せるものだと思っているが。 
8: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/10/21(金) 06:21:37.83 ID:KNNRsk+y0
  
 「楓さん……帰りますよって」 
  
 「嫌です。こんなに月が綺麗な夜なのに、飲むのが自販機のお酒だなんて。そんなの、寂しすぎます。つまらないです」 
  
9: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/10/21(金) 06:22:38.28 ID:KNNRsk+y0
  
 「……プロデューサーのことです。どうせそんなことを言いながら、コンビニで買ったおにぎりやおつまみなんでしょう?」 
  
 「失礼な。今回はちゃんと、駅の売店で買った正真正銘、地方の味だってありますよ」 
  
10: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/10/21(金) 06:24:40.32 ID:KNNRsk+y0
  
  プロデューサーが、この手のかかる駄々っ子のご機嫌を窺うように腕を組む。 
  すると楓は渋々と……本当に、渋々といった様子でゆっくりその場から立ち上がった。 
  
  そんな彼女の態度を見て、ほっと胸を撫で下ろすプロデューサー。 
11: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/10/21(金) 06:26:18.56 ID:KNNRsk+y0
  
  そうして右手を突き出したまま、再び楓が、その場にくしゃりとしゃがみ込む。 
  
  ――……秋の夜長にじりじりと、虫の声を背景に行われた静かな睨み合いの末、先に折れたのはプロデューサーの方だった。 
  
12: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/10/21(金) 06:27:51.60 ID:KNNRsk+y0
  
 「あっ、ま、待ってください!」 
  
  まるでスキップでもするような軽やかさで進む彼女の後を、慌てた様子で追いかける。 
  全身に心地の良い夜風を感じながら、さわさわというススキの音と、虫の声に包まれて歩く二人。 
13: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/10/21(金) 06:28:59.71 ID:KNNRsk+y0
  
  二人の立つアスファルトで舗装された道路と、田んぼから続くあぜ道が交差する小さな十字路。 
  
  少し開けた広場になっているその場所に、ぽつねんと立つ古びた街灯。 
  そしてその下にはもう一つ、赤く、丸い提灯の明かり。 
14: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/10/21(金) 06:30:41.34 ID:KNNRsk+y0
  
  二人が今いる道路の傍に、民家はただの一軒も見当たらない。 
  ほんの少し前ならば(丁度、二人でタクシーを降りた辺りだ)、何軒かの住宅が道沿いに並んでいはしたが……。 
  
  今、二人の周りにあるのは延々広がる田んぼの他に、道路脇に続くなだらかな斜面をうっそうと覆う雑木林だけ。 
15: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/10/21(金) 06:32:05.24 ID:KNNRsk+y0
  
  ――……しかし、それでも道の先にある広場には、未だ提灯の丸い明かりが灯ったままだ。 
  その存在が、夢や現で無いと言うように。 
  
 「……怖いんですか、プロデューサー」 
16: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/10/21(金) 06:33:11.52 ID:KNNRsk+y0
  
 「きっと近所の人が趣味でやってるとか、そういった隠れ家的なお店なんですよ」 
  
 「……だから大丈夫だって言うんですか?」 
  
17: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/10/21(金) 06:35:20.71 ID:KNNRsk+y0
  
 「このまま道を引き返し、回り道しようものなら今晩の晩酌はお預けです。で 
  も、屋台を素通りして宿に戻っても、待っているのは缶のお酒と肴代わりのお菓子だけ」 
  
  中指をゆっくりとたたみながら話す彼女の両目には、「絶対に飲む」という、強い決意が見て取れた。 
18: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2016/10/21(金) 06:37:12.70 ID:KNNRsk+y0
  
 「……本当に、チラッと覗くだけですからね」 
  
 「ふふっ、勿論ですとも」 
  
19: ◆Xz5sQ/W/66[sage]
2016/10/21(金) 06:38:18.80 ID:KNNRsk+y0
 とりあえずここまで。 
20:名無しNIPPER[sage]
2016/10/21(金) 09:34:05.23 ID:yJXdx54T0
 乙 
 こいこいシンデレラで楓さんが無双する話かと思ったら違った 
21:名無しNIPPER[sage]
2016/10/21(金) 13:00:22.87 ID:BdiutnPFO
 ウサミン星の罠だよそれは 
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