1:名無しNIPPER
2016/09/09(金) 20:18:18.66 ID:mHQTk8ix0
※ホラー注意 
  
  
 夢を見た。 
 自宅マンション近くにある大きな溜め池のほとりに、自分が立っている夢。 
 何をするために自分が溜め池の前に立っていたのかはわからない。 
 夢なんて、そんないい加減なものだ。 
 とにかく俺はそこに立っていた。 
 いや、立ち尽くしていたと言うべきか。 
  
 不意に、足元に冷たい感触が起こる。 
 視線を下に向けると、ゼリー状の透明な“何か”が俺の足首までを覆っていた。 
  
 「何なんだこれは!」 
  
 にわかに全身鳥肌が立ち、必死にその場を離れようとするが、足元が固められているため動けない。 
 俺がもがく間にもゼリー状の“何か”は俺の足を登ってくる。 
 足首まで覆い尽くした“何か”は、脛、膝、太腿と俺の下半身を飲み込んでいく。 
  
 「やめろ!離せ!この野郎…!」 
  
 無我夢中で“何か”を掴み、引き剥がそうとするが、水分を含んだゼリー状の“それ”を全て掴むことはできない。 
 どころか、“何か”を掴んだ両手までもがどんどん水分に覆われていく。 
  
 「やめてくれ…!来るな…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」 
  
 気づけば透明な泥のような“何か”は俺の胸まで達していた。 
 マズい…! 
 このまま俺の口や鼻まで“これ”が登ってくれば、俺はすぐにも窒息してしまう。 
 嫌だ!死にたくない! 
  
 「やめろ!何なんだよ!離せよ、助けてくれ、もう嫌だもう駄目だ…」 
  
 “何か”は這い上がるスピードを上げて首元まで迫る。 
 何とかしないと、どうにかしないと。 
  
 必死で首を掻きむしるが、ほとんど効果は無いようだ。 
 既に顎まで“何か”に覆われつつある。 
  
 「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌ゴボッ…」 
  
 何の抵抗もできず、あっさりと口も鼻もゼリーに覆われてしまった。 
 苦しい!! 
 息が詰まる…意識が遠くなる… 
 
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2:名無しNIPPER
2016/09/09(金) 20:19:31.20 ID:mHQTk8ix0
  
 そこでようやく目が覚めた。 
 最悪の寝覚めだ。 
 視認せずとも全身に嫌な汗が迸っているのはわかった。 
 寝る前に点けたエアコンはいつの間にか停止していたようだ。 
3:名無しNIPPER
2016/09/09(金) 20:20:21.96 ID:mHQTk8ix0
 Message body 
  
 小梅を車に乗せてロケ現場へと向かう。 
 事務所からそう遠くない距離ではあったが、今朝の夢の話をするには十分な時間があった。 
 出来れば夢のことは思い出したくなかったが、小梅に相談すれば何かわかるかもしれない、と思ってのことだ。 
4:名無しNIPPER
2016/09/09(金) 20:21:11.36 ID:mHQTk8ix0
 その後は車で移動しながら小梅と軽い打ち合わせを行い、ロケ現場へと到着した。 
 小梅を降ろした後、俺はそのまま事務所へとUターンする予定だった。 
  
 「Pさん…気を、つけてね…」 
  
5:名無しNIPPER
2016/09/09(金) 20:23:52.44 ID:mHQTk8ix0
 朝は小梅を送り届ける用事があったが、それ以降は特に外出する予定はなかった。 
 事務所にこもっての雑務処理は本来好きではないのだが、今日に限っては煩わしい作業も良い気晴らしになるだろう。 
 もちろん、夢のことをすっかり忘れられるほどではないだろうが… 
  
 午後三時を過ぎた頃、眠そうな顔の藤居朋が事務所にやってきた。 
6:名無しNIPPER
2016/09/09(金) 20:27:21.38 ID:mHQTk8ix0
 それなら、俺が見た夢もそんなに悪いものじゃなかったってことか? 
 しかし甘い期待は脆くも打ち砕かれる。 
  
 「ただ、それは穏やかな湖の場合に限るの。マイナスのイメージを抱く夢なら…凶兆になるわ」 
  
7:名無しNIPPER
2016/09/09(金) 20:28:52.92 ID:mHQTk8ix0
 その後は特に目立った問題もなく業務を終えられた。 
 朋にもらったおまもりのお陰か、心なしか気楽に仕事ができたのが良かったのだろう。 
  
 今は繁忙期でもないため、20時には会社を出ることができた。 
 昨日作っておいたカレーがまだ家にあることだし、寄り道せず帰ることにしよう。 
8:名無しNIPPER
2016/09/09(金) 20:30:16.59 ID:mHQTk8ix0
 気づくと俺は溜め池のほとりに立っていた。 
 夢で見た景色? 
 違う。今は現実だ。 
 辺りは暗く、古びた電灯が薄く世界を照らしているだけ。 
  
9:名無しNIPPER
2016/09/09(金) 20:31:49.82 ID:mHQTk8ix0
 「Pさん、目のクマ…酷いよ…?」 
  
 翌朝小梅と会った時の第一声がそれだった。 
 昨日は結局一睡もしていない。 
 今朝は鏡で自分の顔を確認したが、まったく酷いものだった。 
10:名無しNIPPER
2016/09/09(金) 20:32:47.58 ID:mHQTk8ix0
 「ん…」 
  
 何時間ぐらい眠っていたのだろう。 
 重たい身体をソファーから起こす。 
 今回は夢を見ずに済んだようだ… 
11:名無しNIPPER
2016/09/09(金) 20:43:31.60 ID:mHQTk8ix0
 「『俺が働かせすぎたせいかもしれん…』と部長も心配しておられましたよ?ですから、Pさんの今の仕事は体調を戻すことです」 
  
 「すみません、ありがとうございますちひろさん…」 
  
 俺が頭を下げると同時に、お盆を持って歩いてくる小梅の姿が見えた。 
12:名無しNIPPER
2016/09/09(金) 20:44:18.41 ID:mHQTk8ix0
 眠い頭でも慣れた動作は難しくないらしい。 
 手短に受付を済ませた俺は、ブランケットを受け取った後、壁際のリクライニング席へ滑り込む。 
 平日の昼とは言え、幾人か客もいるようだ。 
 名前も知らない人たちばかりなのに、一人でないというだけでこんなにも心強いのか。 
  
13:名無しNIPPER
2016/09/09(金) 20:45:34.08 ID:mHQTk8ix0
 再び目を覚ました時、辺りは真っ暗だった。 
 おかしい。 
 これはどう考えてもおかしい。 
 一眠りして夜になった、ここまでは理解できる。 
 しかしネットカフェの店内が暗いわけがない。 
14:名無しNIPPER
2016/09/09(金) 21:08:16.37 ID:mHQTk8ix0
 溜め池を覆う柵に手をかけた瞬間、不意に気持ちが穏やかになった。 
 懐かしいような、暖かいような感覚… 
 溜め池を見つめる。 
 水面は静かに揺れている。 
 どうだろう。 
15:名無しNIPPER
2016/09/09(金) 21:09:26.88 ID:mHQTk8ix0
  
 「小梅から聞いたわよ、Pが夜な夜な溜め池に呼び寄せられてるって」  
  
 「いやでも、なんでこの場所がわかったんだ…?」 
  
16:名無しNIPPER
2016/09/09(金) 21:10:08.36 ID:mHQTk8ix0
 「お疲れ様です、Pですが」 
  
 「Pさん!?良かったぁ…」 
  
 電話越しにちひろさんの安堵した声が聞こえてきた。 
17:名無しNIPPER
2016/09/09(金) 21:11:39.31 ID:mHQTk8ix0
 ちひろさん曰く、何が出火の原因かはわからないが、とにかく俺の住んでいた部屋は修復不能なほど焼け焦げてしまったらしい。 
 他のアパートの住人はほとんど外出していて、アパートにいた数少ない住人も早く出火に気づいて無事だったようだ。 
 漏電かガス漏れか…何分古いアパートだったため、どちらの可能性も考えられるとのこと。 
  
 また、かなり規模の大きい火事だったためニュースとしてすぐ報道されたらしい。 
18:名無しNIPPER
2016/09/09(金) 21:12:24.87 ID:mHQTk8ix0
 「わ、私、言ったよね…Pさんの周りには怖いものは見えない、暖かい光が見えるって…」 
  
 「そう言えばそうだな…小梅の見立ては当たってってことか」 
  
 「私の渡したおまもりが効かなかったのも、たぶんそのせいね…Pには水難じゃなく火難の相が出てたってことになるし」 
19:名無しNIPPER
2016/09/09(金) 21:13:29.56 ID:mHQTk8ix0
 「それにしても…Pを溜め池に呼び寄せていたのは何者だったのかしらね」 
  
 謎が解けない、と言った表情で朋が呟く。 
 その姿はなかなか様になっていて、やはり占い師より探偵が向いているんじゃないかと俺に思わせた。 
 いや、占い師も色々推理したりするのか? 
20:名無しNIPPER
2016/09/09(金) 21:15:06.42 ID:mHQTk8ix0
  
 「朋…?何を思いついたんだ?」 
  
 「メタファーよ。占いとかでもよくあるんだけど…」 
  
21:名無しNIPPER
2016/09/09(金) 21:15:56.16 ID:mHQTk8ix0
 「しかしそれならなんで昨日もここに呼び寄せられたんだろ」 
  
 「火事が起こる正確な日にちが、お母さんにはわからなかったから…とかじゃない?ま、超常現象に細かく理由をつけるのもナンセンスかもしれないわね」 
  
 「まあ確かにな…でも俺がビビりまくって溜め池からめちゃくちゃ遠くまで逃げたらどうするつもりだったんだろ」 
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