過去ログ - 佐久間まゆ「たった一つの光、願い込めて」
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1:名無しNIPPER
2017/04/09(日) 16:04:05.63 ID:ltgFqpYMo
選挙なので、拙作、佐久間まゆ「星屑サンセット」を少しだけ訂正して再掲載させていただきます。

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2:名無しNIPPER
2017/04/09(日) 16:08:00.11 ID:ltgFqpYMo
 私は恋をしている。

 アイドルの私は許されざる恋をしている。

 読者モデルを経験し、人に見られる仕事に就いた私が最も危惧しなければならないことを、私は自ら起こしている。
以下略



3:名無しNIPPER
2017/04/09(日) 16:09:36.82 ID:ltgFqpYMo
 本当の私は、ただのさみしがり屋。

 プロデューサーさんの泣き出しそうな苦笑いを思い出して広い部屋で泣くだけの、狂った哀れな一人の女。

 私は嫌われなくてはいけない。
以下略



4:名無しNIPPER
2017/04/09(日) 16:12:00.40 ID:ltgFqpYMo
 もうすぐ日が暮れる。徐々に遅くなる夕焼けが空を蝕み、鳥の群れがV字に並んで空を翔けてゆく。

 その鳥たちの行方を見つめてから、私はもう一度テレビに視線を向ける。

「まゆ、この後、暇?」
以下略



5:名無しNIPPER
2017/04/09(日) 16:13:42.06 ID:ltgFqpYMo
「突然どうしたんですか?」

 私は心の内側を悟られないようにいつものような声色で言葉を紡ぐ。

 プロデューサーさんに嫌われるためだけの甘い声で。
以下略



6:名無しNIPPER
2017/04/09(日) 16:15:07.59 ID:ltgFqpYMo
 プロデューサーさんは、にっこりと笑う。

 泣きだしそうに見える、彼特有の笑みで。

「じゃあ、今から行こう。夜は冷えるから仮眠室の毛布を持っていこうか。先に鍵を開けて待っていてくれ」
以下略



7:名無しNIPPER
2017/04/09(日) 16:16:42.61 ID:ltgFqpYMo
 夕日はすっかりと沈んでもう夜の時間。

 プロデューサーさんの車に乗って、私たちは曲がりくねった山道を進んでいる。

 プロデューサーさんの席の後ろでなるべくバックミラーに映らないように、私はプロデューサーさんを見つめている。
以下略



8:名無しNIPPER
2017/04/09(日) 16:18:21.64 ID:ltgFqpYMo
 古びた街灯の根元に車が止まる。

「よっし、着いたぞ、まゆ」

 プロデューサーさんは楽しそうに言う。
以下略



9:名無しNIPPER
2017/04/09(日) 16:19:54.75 ID:ltgFqpYMo
「ねぇ、まだ此処に来た目的を内緒にするんですか?」

 毛布の下から顔を出して、私はいたずらっぽく彼に尋ねる。
 
 彼が無計画に行動を起こすのはいつものこととはいえ、いくらなんでも今回は読めない。
以下略



10:名無しNIPPER
2017/04/09(日) 16:21:16.97 ID:ltgFqpYMo
「俺は昔から自然が好きだったから、良くこの山に来てたんだ。親に怒られた時、テストで悪い点を取った時、先生に怒られた時、嫌なことがあった日はいつも此処にいたっけなぁ」

 しみじみと、プロデューサーさんは言葉を紡ぐ。

 いつの間にかアスファルトの舗装はなくなり、柔らかな芝生が足を包み込んでいた。
以下略



11:名無しNIPPER
2017/04/09(日) 16:22:26.54 ID:ltgFqpYMo
 やがて私たちは展望台を登り切り、鉄柵に両腕を置いた。

 プロデューサーさんが体重をすっかりと鉄柵に預けているのを見て、私も恐る恐る彼の真似をする。

 プロデューサーさんはスーツ姿、私は毛布をかぶったお化け。
以下略



12:名無しNIPPER
2017/04/09(日) 16:24:16.71 ID:ltgFqpYMo
「奇麗だろう? 昔泣き疲れてこの場所で眠ったら、偶然見つけたんだ。その頃は寒くて次の日に風邪をひいたけど、それに見合って余りあるくらいの体験をしたと思っているよ」

 瞬く星から目を離せない私にプロデューサーさんが言葉をかける。

 やっとのことでその光景から視線を離し、私はプロデューサーさんの瞳を見つめた。
以下略



13:名無しNIPPER
2017/04/09(日) 16:26:31.79 ID:ltgFqpYMo
「俺は、まゆの前にも数人アイドルをプロデュースしてきてる。だから、アイドルが考えてることくらいはわかるつもりだった」

 独り言のような調子で、プロデューサーさんは呟く。

「最初に担当したアイドルは、凛だった。彼女はじゃじゃ馬だったが、今思えばあいつの考えてることはわかりやすかったな。俺が思うアイドル像に、一番近い奴だった」
以下略



14:名無しNIPPER
2017/04/09(日) 16:32:31.50 ID:ltgFqpYMo
「まゆは……プロデューサーさんのことが大好きです」

「それはさんざん聞いたよ。それも、演技じゃないのかと俺は考えている。その一人称や笑い方が演技なんじゃないかって、俺の考えすぎかな?」

 乾いた笑いがこぼれる。
以下略



15:名無しNIPPER
2017/04/09(日) 16:38:13.95 ID:ltgFqpYMo
「私は、プロデューサーさんを嫌いになんてなれませんでした。だから、貴方に嫌われるような私になろうと思ったんです」

 そして私は、プロデューサーさんに背を向けて星空を見上げる。

「でも、貴方は私のことを嫌ってはくれませんでした。あんなに重い女を演じていたのに、どうして貴方は私の心に歩み寄ってきたんですか?」
以下略



16:名無しNIPPER
2017/04/09(日) 16:40:26.80 ID:ltgFqpYMo
 こうして素直に心情を吐露すれば、立派な社会人である彼なら、私を嫌ってくれただろう。

 君の想いに応えることはできない、と、やんわりと私を拒絶してくれたのだろう。私の初恋は、緩やかに終わりを迎えたのだろう。

 だが、私はそうできなかった。
以下略



17:名無しNIPPER
2017/04/09(日) 16:42:25.49 ID:ltgFqpYMo
 ようやく、私の初恋は終わる。

 嫌われるためだけの、病んで狂った『佐久間まゆ』も、今日でおしまい。

 そう思っていたのに、彼は毛布ごと、私の背中を抱きしめた。
以下略



18:名無しNIPPER
2017/04/09(日) 16:42:59.20 ID:ltgFqpYMo
「最初は、君のことを苦手だと思っていた。でも、レッスンやライブに一生懸命な君を見ていたら、どうしようもなく君が愛しくなってきたんだ」

 まるで夢のような言葉に、私はただ泣き続けることしかできない。

「俺はプロデューサーで、君はアイドル。こんなことがあってはいけないのはわかっていたさ。だから俺は、君とつかず離れずの距離を保った」
以下略



19:名無しNIPPER
2017/04/09(日) 16:45:03.14 ID:ltgFqpYMo
「……これから、どうしましょうか」

 務めて声を震わせないように、私はそれだけを呟く。

 プロデューサーとアイドルが恋仲なんて、スキャンダルも良いところだ。
以下略



20:名無しNIPPER
2017/04/09(日) 16:45:33.26 ID:ltgFqpYMo
「それから、君がアイドルを引退したら、俺がプロデューサーを引退したら、今までできなかったことを少しずつ埋めていくんだ。時間をかけて、ゆっくりと。それまで、待ってくれるか?」

「うふ、他の子から迫られても、私を捨てないでくださいね?」

「はは、まゆこそ、俺を捨てないでくれよ?」
以下略



21:名無しNIPPER
2017/04/09(日) 16:46:23.02 ID:ltgFqpYMo
以上です。少ししたらHTML依頼出してきます。ご覧くださりありがとうごさいました。


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