1:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[saga]
2012/08/29(水) 23:47:39.62 ID:x68eWxlN0
昨夜は少し冷えていたから、タオルケットを頭までかぶって眠ったのが悪かったのかもしれない。 
 「あっつ……」とあまりの寝苦しさにうめき声をあげ、私はぼんやりと目を覚ました。タオルケットを足ではねあげ、油断すればすぐにでもまたくっつきそうになる目蓋と必死に戦う。 
 徐々に目が覚めてくると、次は聴覚が覚醒し始める。しんと耳を澄まして目覚ましが鳴るのを待っていると、部屋の外からカチャカチャと食器の当たる音がした。 
  
 妹「……」 
  
 その音を聞き流しながら、私はさらに数分、一日の始まりを報せる音がするのを待ち続け。 
 もしかして、と思い始めた私がそっと身体を起こしたのは五分ほど経ったあとだった。 
 敷き布団の端の枕元に倒れるようにして置いてある目覚まし時計を手に取る。時刻を確認すると、私はがさっと立ち上がった。古びた目覚まし時計が示していたのは、普段よりきっちり十分、遅い時刻だった。 
 
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2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[saga]
2012/08/29(水) 23:48:53.30 ID:x68eWxlN0
 急いで顔を洗って制服に着替えると、短い髪を左右に結んで部屋を出る。短い廊下を歩いて居間の前に立ち一度短く息を吸い込んで、私は「おはよう」と扉を開けた。 
 「おはよう」と返事をしたのは朝食をとり終えて優雅に朝のコーヒーをすすっているお姉ちゃんだった。 
  
 姉「さっさと食べないと遅刻するわよ」 
  
3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[saga]
2012/08/29(水) 23:49:40.02 ID:x68eWxlN0
 姉妹の仲は別段悪いというわけではない。むしろ私が中学に上がってからはほとんどケンカはしなくなったし、良好と言えるだろう。 
 けれど、私はお姉ちゃんとの間に確かな距離を感じていた。というよりは、一方的に私が避けてるといえた。 
 昔はお姉ちゃんの後にばかりついていっていたのに、今じゃそんなこともなく、今年の春、たった数ヶ月前に入学した高校もお姉ちゃんとは違う学校で。 
  
 けれどお姉ちゃんの学校での様子は、私が聞かずとも勝手に耳に入ってきた。 
4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[saga]
2012/08/29(水) 23:50:55.57 ID:x68eWxlN0
 姉「ん?ああ、今日はあんたの当番なのに起きるの遅いからやっといてあげた」 
  
 朝食を食べ終えたお皿を重ねこちらにやってきながら、お姉ちゃんが言う。 
  
 私の前には二人分のお弁当箱。一方はピンクの花柄のナフキンに包まれ、もう一方はただおかずが詰め込まれただけで放置されてある。 
5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[saga]
2012/08/29(水) 23:51:56.71 ID:x68eWxlN0
 ◆ 
  
 お姉ちゃんと一緒に登校しなくなったのは、いつからだっただろうか。少し焦げたトーストに、薄くマーガリンを塗りながら私はふとそんなことを思った。 
  
 テレビは今、つけっぱなしにしていったお姉ちゃんが嫌いらしい可愛らしい動物の話題だった。昨日パンダの赤ちゃんが生まれたというニュース。 
6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[saga]
2012/08/29(水) 23:53:08.83 ID:x68eWxlN0
 トーストの最後のひとかけらを噛み砕いて、冷蔵庫からパックのコーヒーを取り出して、コップに注ぐ。 
  
 思えばこの家に越してきて今年で三年目。備え付けられていた小さな冷蔵庫は、この三年の間にかなり痛んでいた。 
 テレビだって元々あったもので、だいぶ古い型だ。おまけに冷蔵庫と負けず劣らず小さい。私たち姉妹の部屋は別々にあるものの、お風呂や洗面所だって狭い。 
 よくもまあ、こんな古いアパートの一室で満足できたものだと自分を褒めてやりたくなるほどに。 
7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[saga]
2012/08/29(水) 23:53:55.55 ID:x68eWxlN0
 この性格だけではない。全部において、私はどうしても、普通とは違った。特別でもなかった。ただ、私はおかしいのだ。 
 だからきっと、お姉ちゃんも私を置いていきたかった。そうに決まっている。 
  
 きみわるい、もんなあ。 
  
8:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[saga]
2012/08/29(水) 23:55:01.07 ID:x68eWxlN0
 私は、おかしいのだ。小さい頃はよく動物と会話していたことを他人に話した。家族にも、話した。 
 けれど人と違うことを自覚してからはなにも言わなくなった。それでもお姉ちゃんにだけは伝えた。お姉ちゃんならわかってくれると思っていた。 
 でもある日、私は母親にこっぴどく叱られた。もうやめて、と。見たことない顔で、声で、言われた。その後ろには、お姉ちゃんの怯えた顔があった。 
  
 たぶん、私たちの間の距離が遠ざかり始めたのは、その頃からだった。そのことがあっても変わらずに接してくれるお姉ちゃんに、私も変わらず 
9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[saga]
2012/08/29(水) 23:55:35.80 ID:x68eWxlN0
 こんな感じで続けます 
 今日は以上、それではまた 
10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2012/08/30(木) 00:06:34.94 ID:7Q3UU2wIO
 一瞬糞スレかと思ったがなかなか面白い 
  
 もっと改行した方が良いのでは? 
11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[saga]
2012/08/30(木) 23:09:32.22 ID:i6e9y6l20
 ◇ 
  
 妹「……うわ、降りそう」 
  
 教室の寂れた窓の桟に手をかけながら見上げた空はどんよりとした曇り空で、今すぐにでも雨粒がぽとぽとと落ちてきそうだった。 
12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[saga]
2012/08/30(木) 23:11:00.40 ID:i6e9y6l20
 ――――― 
  ――――― 
  
 うちの学校は、部活動が盛んだった。体育系の部活から文化系の部活まで様々な部活が存在しており、全国大会やインターハイの常連だなんて部も少なくはない。 
 かと言って絶対になにかに入らなければならないというわけでもなく、私みたいな帰宅部の生徒もそれなりにいた。 
13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[saga]
2012/08/30(木) 23:11:56.16 ID:i6e9y6l20
 予想だにしなかった出来事に、私は「忙しいので」と断ることはできなかった。 
 それで図書室の閉まる五時までという約束で、私はカウンター作業に徹することになって。 
  
 そんな中、私はどうしても放ってはおけないものを見つけてしまったのだ。 
  
14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[saga]
2012/08/30(木) 23:12:38.62 ID:i6e9y6l20
 約束の時間になって、私は重くはない鞄と共に大量の本を抱えて図書室を出た。 
 先に書庫に寄りだいたいの本を返したあと、何冊かの本をもう一度持ち直して教室へ向かった。最後の教室に入ったときだった。 
  
 バタンッ、バタンッ 
  
15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[saga]
2012/08/30(木) 23:13:52.64 ID:i6e9y6l20
 目を合わさなければ、声はおぼろげにしか聞こえてこない。 
 この鳥はなにかを言っているようだった。鳴いていた。私は知らない振りをした。 
  
 それでも、だめだった。 
  
16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[saga]
2012/08/30(木) 23:14:47.79 ID:i6e9y6l20
 今思えば教室にある箒でもよかった。けれどそのときは気持ちが急いていて、折り畳み傘を伸ばし、太い枝を叩くことしかできなかった。 
  
 最初は弱く、それではまったく意味がないと悟ってからはだんだんと強く。 
 ガサガサと騒がしく揺れる葉と、同じようにして揺れ動く小鳥のからだがすいっと挟まれていた枝々から抜け出したのは何分そうして格闘していたかわからなくなる頃だった。 
  
17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[saga]
2012/08/30(木) 23:15:24.65 ID:i6e9y6l20
 ――――― 
  ――――― 
  
 学校を出ると、携帯には一件だけ着信が入っていた。お姉ちゃんだ。そういえば、今日の晩御飯の当番は私だった。 
 下駄箱で靴を履き替えながら携帯を閉じて、私は躊躇う間もなく昇降口を出た。 
18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[saga]
2012/08/30(木) 23:15:57.88 ID:i6e9y6l20
 犬だ。 
  
 一歩踏み出しかけて、頭を振る。今日はこんなことばかりだ、と思う。嫌な予感がした。 
 せっかく息切れがおさまってきた身体を、私は無理に走らせた。 
 できるだけ公園の脇でへたりこむようにしている犬を気にしないように通り過ぎて―― 
19:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[saga]
2012/08/30(木) 23:18:06.85 ID:i6e9y6l20
 今日は以上 
 それではまた 
  
 >>10 
 できるだけ読みやすいようにしているつもりですがやはり読みづらいでしょうか 
20:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[saga]
2012/09/02(日) 19:25:16.98 ID:vKHLHb/h0
 「は?」と声に出して、思わず固まる。 
 確かにはっきりと聞こえたその声は明らかに目の前で尻尾と耳を垂れているこの犬のもので。 
  
 妹「お恵みって、なに……」 
  
21:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)[saga]
2012/09/02(日) 19:25:44.16 ID:vKHLHb/h0
 なんだか、圧倒される。 
 犬はじりじりと私に近付いてきて、さっきまで垂れ下がっていた耳はぴんとして、その尻尾はふらふらと揺れている。 
  
 妹「でも、本当になにも持ってな……って、ちょっと!」 
  
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