過去ログ - 万里花を愛でるニセコイSS「ハナヨメ」
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名無しNIPPER
2015/06/20(土) 23:10:18.86 ID:EUGrH/Tp0
「なぁ、橘。お前ってその……ウエディングドレスとかに興味ってあるか?」
学校帰り。一条楽の唐突な問いに、橘万里花は一瞬思考が停止し、咄嗟に反応ができなかった。
「ら、楽様? すみません、今なんと……?」
「いや、だから、ウエディングドレスに興味はあるのか、って」
己の聞き違いではなかったことを確認し、万里花の瞳が輝きを帯びる。
まさか、楽様がこんなに突然に!
「こ、ここ、子供の名前は何にいたしましょう!?」
「ぶうっ!?」
階段を軽く三段は飛び越えた万里花の反応に、楽は自分の尋ね方がこの暴走少女にあらぬ妄想を抱かせてしまったことに気が付いた。
万里花は既に遠い目をして、よだれを垂らし始めている。
「そ、そうじゃなくてだな、バイトだよ、バイト」
「バイト……?」
空想の世界から帰ってきた万里花は、お上品にフリルのついた可愛いハンカチで口元のよだれを拭きながら尋ねる。
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2
:
名無しNIPPER
2015/06/20(土) 23:11:59.46 ID:EUGrH/Tp0
「ああ、実はうちの組のものが最近できたばかりの結婚式場で働き始めてな……」
その組員はコワモテながら、ウエディング業界で仕事をするのが夢だったらしい。
どんな転職活動をしたのかは不明だが、念願叶って結婚式場の仕事に就いたその彼が楽に頼みごとをしてきたのだという。
以下略
3
:
名無しNIPPER
2015/06/20(土) 23:13:08.10 ID:EUGrH/Tp0
「まあ、素敵……!」
ずらりと並べられたウエディングドレスに万里花の瞳が輝く。いつも楽のことを見つめる時もキラキラと目を輝かせているが、それに負けずとも劣らない。
式場に着いてからというもの、万里花のテンションは天井知らずだった。
以下略
4
:
名無しNIPPER
2015/06/20(土) 23:13:59.06 ID:EUGrH/Tp0
「わ、私がこれを着ても……?」
「ええ、もちろん、あなたなら私の想像の通りにきっと似合――」
その言葉の終わりを待たずに、万里花がいきなり着ていた制服を脱ぎ始めた。
「うおおーい! 橘、お前何やって……!?」
以下略
5
:
名無しNIPPER
2015/06/20(土) 23:15:01.99 ID:EUGrH/Tp0
「楽様ー!!」
万里花の叫びとともに、控え室のドアが勢いよく開いた。
楽はちょうど白のタキシードへの着替えを終えて、髪のセットをしてもらっていたところだった。
以下略
6
:
名無しNIPPER
2015/06/20(土) 23:16:05.96 ID:EUGrH/Tp0
「あのドレス、小柄でスリムな女性向けのデザインらしいのです。腰回りなどは問題なかったのですが……」
しょんぼりしながら続ける万里花。
しかし、それはすなわち、万里花の身体がその細さ小ささに反するボリュームの胸を備えているということに他ならない。
以下略
7
:
名無しNIPPER
2015/06/20(土) 23:17:22.71 ID:EUGrH/Tp0
「ねえ、ダーリン。何だか最近忙しそうじゃない?」
「えっ?」
ビクリとしてしまった、だろうか。桐崎千棘は怪訝そうに楽の顔を見ている。
以下略
8
:
名無しNIPPER
2015/06/20(土) 23:18:05.46 ID:EUGrH/Tp0
「楽様ー!」
ガラリとドアが開き、もう五時限目も終わったというのに堂々と万里花が教室に入ってきた。
いつも通りの楽に向けられた微笑み。
でも、なんというか、どこかいつもと違う気がする。
以下略
9
:
名無しNIPPER
2015/06/20(土) 23:19:07.14 ID:EUGrH/Tp0
「お、おい、橘、いい加減に……って、ん?」
「ひゃう!」
されるがままになっていた楽が、するりと手を万里花の首筋にあてる。すべすべてもちもちで、ちょっと熱い。
以下略
10
:
名無しNIPPER
2015/06/20(土) 23:20:05.41 ID:EUGrH/Tp0
「……すみません、楽様」
「だから何度も言ってるだろ、無理せずに言え、って」
保健室のベッドに寝かされた万里花は、やはり少し顔が赤い。
エステ帰りなので肌艶はよさそうだが、微かに疲れたような様子が見て取れる。
以下略
11
:
名無しNIPPER
2015/06/20(土) 23:21:27.93 ID:EUGrH/Tp0
「いいお天気ですわね、楽様。まさに、空前の結婚日和ですわ!」
両手を晴れ渡った青空に突き上げながら万里花が言った。二日間安静に過ごしたおかげで元気を取り戻したらしい。
以下略
12
:
名無しNIPPER
2015/06/20(土) 23:22:30.01 ID:EUGrH/Tp0
この一週間、万里花がどんなに今日という日を楽しみにしていたか。
身体が弱いくせに、無理して努力して、それで体調を崩しても秘密にまでしようとして。
それなのに。
以下略
13
:
名無しNIPPER
2015/06/20(土) 23:24:29.29 ID:EUGrH/Tp0
ずずず、とジュースをストローで吸い込みながら、万里花の様子を伺う。
万里花はなんだか長い名前のコーヒーのカップを口元に当てたまま、飲むでもなく、上に浮かぶホイップクリームをじっと見つめていた。
「なぁ、橘……」
楽の呼びかけに、一呼吸遅れてから万里花が顔を上げる。
以下略
14
:
名無しNIPPER
2015/06/20(土) 23:25:37.85 ID:EUGrH/Tp0
自分に何かができるわけではないのかも知れない。
だけどせめて。
それならば、今回万里花が抱いた夢ぐらいは叶えてやりたいではないか。
ガタッと椅子を鳴らして、楽は勢いよく立ち上がった。
以下略
15
:
名無しNIPPER
2015/06/20(土) 23:26:18.61 ID:EUGrH/Tp0
「お嬢様、起きてください」
ゆさゆさと揺すられて、万里花は目を覚ました。
どうやら楽の帰りを待っている間に、うとうとと眠ってしまっていたようだった。
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16
:
名無しNIPPER
2015/06/20(土) 23:27:22.77 ID:EUGrH/Tp0
楽の身に何かあったのだろうか。
店を飛び出して行ったときの様子からすると、彼のことだからどんな無茶をしていないとも限らない。
不安な考えが脳裏をよぎったが、万里花の迎えにこの二人を寄越す辺り、それほど切羽詰まった状況とも思えななかった。
万里花は楽のことを信じて、とにかくこのまま一刻も早く楽の元に向かうことだけを考えることにした。
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17
:
名無しNIPPER
2015/06/20(土) 23:28:16.01 ID:EUGrH/Tp0
「ここは……」
連れてこられたのは町の外れにある小高い丘の上。そこにポツンと、小さな小さな教会が立っていた。
「来たわね、万里花ちゃん」
声をかけてきたのは先週、あの結婚式場で出会ったドレスのデザイナーの女性だった。
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18
:
名無しNIPPER
2015/06/20(土) 23:29:27.39 ID:EUGrH/Tp0
ギイイと軋む音を立てて、教会の正面扉がゆっくりと開く。
差し込んでくる夕暮れの日差しに、小さなシルエットが浮かび上がった。
大輪の花束を模したような純白のウエディングドレスは、夕陽に照らされて、少女の髪と同じオレンジ色にキラキラと輝いていた。
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19
:
名無しNIPPER
2015/06/20(土) 23:30:12.41 ID:EUGrH/Tp0
「楽様、本当にありがとうございます」
バージンロードの中頃にタキシード姿で立っていた楽の元にたどり着き、万里花は心からの感謝を込めて言った。
髪のセットと化粧直し、そしてドレスへの着替えをしている間に、万里花は事の経緯を聞かされていた。
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20
:
名無しNIPPER
2015/06/20(土) 23:31:50.25 ID:EUGrH/Tp0
「あー、でな、結局パンフレットの写真撮影じゃなくなっちまったけどさ……」
これから言おうとしていることがとても「くさい」ことだという自覚があるだけに、踏ん切りがつかずに言葉に詰まってしまう。
だけど、照れてばかりもいられない。
以下略
21
:
名無しNIPPER
2015/06/20(土) 23:32:37.94 ID:EUGrH/Tp0
招待客のいないバージンロードを二人で進む。
一歩毎に胸が高鳴り、これでは自分の鼓動が相手に聞こえてしまうのではないかと心配になってくる。
「こ、これでいいのか?」
「はい、新郎は花嫁をエスコートするように、腕を組んで祭壇まで歩いて行くのですわ」
以下略
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