過去ログ - キリコとコブラでむせる
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1:S・エルロイ
2012/06/30(土) 22:11:28.42 ID:n3CjMYIK0
 悪魔がホルンを吹き鳴らす時刻、街に立ち並んだ巨大なビル群は、峻厳とした山々の峰のように如く天高く聳え立っていた。

 時計の針が午前一時を指した頃、バイケンは、チクタクと静かに回る秒針の音とともに、路地裏にたむろするギルドの売人どもから、月のアガリをせしめていた。
 バイケンは売人にロド麻薬を売らせ、売人はバイケンに売った麻薬の金の二割を上納金としておさめるのが、ここでの取り決めだ。

 闇金、賭博、売春宿、殺し──この街での非合法なビジネスは、全てバイケンの息がかかっている。
 悪党のバイケン、それがここでの通り名だ。口に咥えた葉巻が、グレーの煙をゆらゆらと立ち上らせる。

 バイケンは海賊ギルドの中堅幹部だ。魔女のように伸びた鷲鼻は痘痕だらけで、右目には眼帯が巻かれている。
 失った右目──かつて一匹狼の海賊に奪われた。海賊の名はコブラ、宇宙最高の賞金首と呼ばれた男だ。

 もっとも、数年ほど前にぷつりと消息を絶ち、今ではもう死んでいるだろうというのが、もっぱらの噂だった。
 死んだ?奴が?あの不死身の海賊が?バイケンはそんな噂話なぞ信じてはいなかった。

 そうだとも、奴はどこかで生きているはずだ。あいつはそんなヤワなタマじゃない。 
 奴は地獄の住民だ。悪魔を友にし、死神と連れ歩く、それがあの男だ。

 ぼんやりとした薄明かり、外灯の回りでは、季節外れの蛾が飛び回っていた。
 ロド麻薬は金になる。買った奴はやがて廃人になる。売人は新しい客を捕まえて、ロド麻薬を売りつける。
 売った金はバイケンの懐へと転がり込む。



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2:S・エルロイ
2012/06/30(土) 22:12:08.38 ID:n3CjMYIK0
 灰色のコンクリートでできた街路、壁に貼られた賞金首のポスター、

 方眉をつりあげ、バイケンが不機嫌そうに灰になりかけた葉巻を吐き捨てる。

 「ナット、最近売り上げが落ちてねえか」
以下略



3:S・エルロイ
2012/06/30(土) 22:12:49.55 ID:n3CjMYIK0
 愛嬌のある顔ではあるが、お世辞にもハンサムとはいえない。
 「おいおい、俺を覚えてないのか。冷たいなあ」

 男が親しい友人に話しかけるように、バイケンに向かって気さくに声をかける。

以下略



4:S・エルロイ
2012/06/30(土) 22:13:28.74 ID:n3CjMYIK0
 闇に沈んだ廃屋で、キリコは赤ん坊を優しく抱きしめた。夜風のせせらぎと静かな月の光。
 キリコ・キュービィー、それがこの男の名だ。キリコ──神の後継者と呼ばれ、神を殺し、そして神の赤ん坊を連れ去った男。

 その半生は神秘と伝説に彩られ、マーティアルですら恐れおののいた。

以下略



5:S・エルロイ
2012/06/30(土) 22:14:13.08 ID:n3CjMYIK0
 
 惑星アルディーンはザ・ゴザと並ぶ戦場の星だった。金に目が眩んだ命知らずの傭兵と、賞金首のお尋ね者が集う星、
 それがアルディーンだ。巨大なドームが割れ、次々と宇宙船が飛来していく。
 
 空中に掲げられた航路標識を小型の飛行艇が横切った。ここはアルディーンの首都だ。
以下略



6:S・エルロイ
2012/06/30(土) 22:14:59.41 ID:n3CjMYIK0
 激しいドラムとベースのリズム、耳を聾するエレキギターの咆哮。カウンターに並ぶスティールにふたりは腰を下ろした。
 コブラがバーテンにライトビールを二つ注文した。キリコはあまり酒が飲めない。ビールを嗜む程度だ。
 この前、コブラがバーボンを奢ってやったら、酒の度数にキリコは顔をしかめていた。

 薄暗い照明、天井からつり下がった裸電球は、絞首台にぶらさがった死刑囚のように音もなく揺れていた。
以下略



7:S・エルロイ
2012/06/30(土) 22:15:46.78 ID:n3CjMYIK0
 低い空、暗雲が重く圧し掛かってくる。森と森を隔てる川──黒い急流を二体のスコープドッグが泳ぐように突き進む。
 水深に足を取られないように注意しながら、岩床の裂け目に流れ込む、強く引っ張るような川の力をふたりの男は感じていた。

 川岸にたどり着き、泥濘を踏みつけながら、キリコは辺りに敵兵が潜んでいないか警戒した。
 地面から突き出た岩場の影、生い茂った茂みの中、苔むした倒木にカモフラージュし、敵はどこからでも飛び出してくる。
以下略



8:S・エルロイ
2012/06/30(土) 22:16:12.53 ID:n3CjMYIK0

 ふたりが左右に旋回しながら、敵の銃弾を回避する。キリコの撃った数発の弾が敵の装甲を貫いた。
 ポリマーリンゲル液に引火し、一機のツヴァークが回りの仲間を巻き込んで爆破した。

 鼓膜を震わせる爆音、吹き上がる紅蓮の炎、機体の破片が岩肌に突き刺さる。ゴーグル越しにキリコは敵を見据えた。
以下略



9:S・エルロイ
2012/06/30(土) 22:16:52.41 ID:n3CjMYIK0
 ミッター橋が強い突風にあおられて、グラグラと揺れるように傾いだ。キリコが橋の中央までいくと、橋下を見おろす。
 打ち寄せる汚水の波が、コンクリートの壁を引っかいている。
 排水溝が垂れ流す廃棄物──ヘドロの川から昇る異臭がキリコの鼻腔を撫でた。

 コブラの左腕は義手だった。義手の中に仕込まれていたのは銃だ。
以下略



10:S・エルロイ
2012/06/30(土) 22:17:33.80 ID:n3CjMYIK0
 コブラとキリコが良く集う、その酒場の名前は「ハッシュ・ハッシュ・ハッシュ(マリファナだらけ)」といった。
 何故、そんな名前なのかは誰にもわからない。バーテンですら知らなかった、
 
 酒場に陽気なサックスが響いた。赤々と燃えた葉巻の煙を吐き出し、コブラが空になったグラスをコースターに置く。
 溶けかかった氷がグラスにぶつかり、カランと音を鳴らした。
以下略



11:S・エルロイ
2012/06/30(土) 22:19:21.65 ID:n3CjMYIK0
 ファッションモデルのようなスタイルだ。

 腰から垂れ下がった弛んだガンベルトが、美女の白い尻の辺りで止まっていた。

 コブラの視線が女の相貌を射抜く──ジェーン──女は殺されたジェーンと瓜二つだった。張り詰めるコブラの鼓動。
以下略



12:S・エルロイ
2012/06/30(土) 22:21:38.93 ID:n3CjMYIK0
 「賞金稼ぎ兼ボトムズ乗りってとこかしら。この星にはお尋ね者も多いし、傭兵仕事も腐るほどあるから、稼ぐには持って来いよ」
 コブラがスツールの背にもたれかかり、ヒューっと口笛を吹いた。

 「女のボトムズ乗りかあ、渋いねえ」
 突然、バーテンの笑い声がカウンターに響いた。腹を抱えてひゃっひゃっひゃと笑い続ける。
以下略



13:S・エルロイ
2012/06/30(土) 22:22:18.25 ID:n3CjMYIK0
 「ナチ、一杯どうだ?」
 「頂くわ」
 キリコが酒の相手をしないとわかると、コブラはナチを酒の相手に選んだ。コブラがナチを見て、溜息を漏らす。
 「はあ、しかし勿体ねえな。こんな美人だってのに、男とはね」
 「残念だったわね」
以下略



14:S・エルロイ
2012/06/30(土) 22:23:07.31 ID:n3CjMYIK0
 特大スクリーンの向こう側では、顔面にアームパンチを叩き込まれたスタンディングトータスが、派手に転倒した。

 変形したコックピットのハッチから、夥しい血が溢れ出す。スタンディングトータスに乗っていた奴は間違いなく即死だろう。

 「くそっ、くそっ、くそったれっ、これで有り金全部スっちまったっ」
以下略



15:S・エルロイ
2012/06/30(土) 22:23:37.17 ID:n3CjMYIK0
 ハンモックから身を起こし、キリコは揺りかごで眠る赤ん坊を見た。ハンモックから降りる。
 それから赤子を起こさぬように、キリコは椅子にかかった耐圧服を静かに着た。

 埃で汚れた窓から、黄金色に輝く太陽の陽射しがまばゆいている。キリコは軽い眩暈を覚えた。
 安普請な作りの宿屋の階段をおりて、食堂にいく。
以下略



16:S・エルロイ
2012/06/30(土) 22:24:12.73 ID:n3CjMYIK0
 赤い酸の雨が降り注いだあとの街中は、いつも嫌みったらしく空気がじめついている。
 クエント人の大男が、雨上がりの路地をノシノシと歩いていた。
 「ル・シャッコ、あんたの古い知り合いってのは、ここら辺の近くにいるのか」
 「そうだ」
 シャッコが、隣にいる男の問いかけに簡潔に答えた。クエント人は総じて寡黙である。
以下略



17:S・エルロイ
2012/06/30(土) 22:26:59.28 ID:n3CjMYIK0
 なめした黒革のソファーに深く身体を預け、影法師がブランデーグラスを掌で暖める。異様な風体だ。
 黒ずくめの外套を頭から被せて、全身を隠している。
 
 影法師がもう一つのグラスに琥珀色の液体をなみなみと注ぐと、カン・ユーに手渡す。
 グラスを黙って受け取ると、カン・ユーがブランデーを胃の臓腑に流し込んだ。
以下略



18:S・エルロイ
2012/06/30(土) 22:27:47.19 ID:n3CjMYIK0
 激しい熱気がバトリングドームを包んだ。絶叫、怒号、声援、あらゆる叫びがドーム内で反響した。
 観客達のギラつく視線が、頭上に高々と上がったパネルの文字にに絡みつく。
 「負けるなっ、コブラッ」

 「やっちまえっ、ガーランドッ!」
以下略



19:S・エルロイ
2012/06/30(土) 22:28:31.99 ID:n3CjMYIK0
 「コブラに三千ギルダンだっ!」
 「サラマンダーに五千ギルダンっ!」
 「こっちはコブラに八千ギルダンだっ!」
 「俺はサラマンダーに全財産賭けるぞっ!」
 「それなら俺もコブラに全財産賭けてやるぜっ!」
以下略



20:S・エルロイ
2012/06/30(土) 22:29:19.86 ID:n3CjMYIK0
 カン・ユーは動く標的を見極めようと目を凝らした。コブラがカン・ユーを巧みに掻き乱す。
 鼓膜を打つ甲高い衝撃音──カン・ユーの右頬を粘つく血が伝った。こめかみに浮かぶ血管が脈動した。

 体内で過剰に分泌されるアドレナリン──沸騰する血液。カン・ユーの身体が火照った。熱い。なんて熱さだ。
 
以下略



21:S・エルロイ
2012/06/30(土) 22:29:50.56 ID:n3CjMYIK0
 キリコの放ったバハウザーの銃弾をかわし、クリスタルボーイは獲物へと迫った。クリスタルボーイに飛び掛るル・シャッコ。
 「邪魔をするな」
 クリスタルボーイが右腕を振り払うように薙いだ。シャッコの巨体が壁に激突する。激しい衝撃にシャッコは昏倒した。

 「シャッコッ」
以下略



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