1:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/05/18(土) 07:52:25.80 ID:0FhXK3hqo
雨音で目が覚めた。
柔らかな毛布に包まれていた体を、ゆっくりとベッドから引き剥がす。
薄着のまま眠ったせいだろう。鼻と喉の調子が良くなかった。
ベッドを降りると、裸足のままのわたしには、絨毯の感触がふわりとくすぐったい。
服を着替えようと思ったけれど、面倒だったし、いがいがする喉の感覚をどうにかする方が先に思えた。
わたしは、絨毯の上に放り投げていた桜色のカーディガンをパジャマの上に羽織る。
布団にくるまっていると寝苦しくて、つい薄着のまま眠ってしまう。
いいかげん学習して、もう少し暖かくして眠ればいいのに。
自分でもそう思うのだけれど、いまさら自分の身体を気遣うのは、なんだかばからしいことに思えた。
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2013/05/18(土) 07:53:10.10 ID:0FhXK3hqo
綺麗な赤い絨毯。真っ白な天井と壁。
窓の外の様子を見ると、いつも通り、覆いかぶさるような灰色の雲から、雨粒が静かに降り続いていた。
それでもたしかに、太陽はおぼろげな光を携え、東の空に浮かんでいる。
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2013/05/18(土) 07:53:36.62 ID:0FhXK3hqo
この広々とした屋敷にいるのは、わたしの他にはたったひとり。
メイドを自称するシラユキという少女だけ。
いつからなのか。
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2013/05/18(土) 07:54:17.83 ID:0FhXK3hqo
◇
厨房の扉を開けると、シラユキの姿が見えた。
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2013/05/18(土) 07:55:13.20 ID:0FhXK3hqo
きしきしと音が立つような寒さの中、まだ薄暗い厨房で、彼女の立ち姿はいつもより頼りなく見えた。
厨房の入口で立ち止まったわたしに気が付くと、シラユキはふわりと笑う。
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2013/05/18(土) 07:55:41.79 ID:0FhXK3hqo
「なんですか、急に?」
シラユキは戸惑った風な声音で言う。
後ろから抱きついているせいで顔が見られないことを、わたしは少し残念に思った。
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2013/05/18(土) 07:56:08.03 ID:0FhXK3hqo
「そんなこと言わずに、味見させてよ」
「……かまいませんけど」
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2013/05/18(土) 07:57:47.33 ID:0FhXK3hqo
◇
屋敷には大きな姿見があるから、わたしは自分の姿をちゃんと確認することができる。
わたしの髪は真っ黒にくすんでいて、瞳も焦茶色に近いが、ちゃんと確認しないと黒っぽくしか見えない。
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2013/05/18(土) 08:01:08.68 ID:0FhXK3hqo
この屋敷に来たのがいつだったか、正確には思い出せない。
つい最近だという気もするし、ずっと前だという気もする。どうもはっきりしないのだ。
というよりわたしには、そんなに昔のことがよく思い出せないのだ。
10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/05/18(土) 08:02:26.92 ID:0FhXK3hqo
◇
「最近、嫌な夢を見るの」
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2013/05/18(土) 08:03:54.12 ID:0FhXK3hqo
昼になれば少しは暖かくなるけれど、この街の朝は、凍えそうに寒い。
けれど、この張りつめたような冷たい空気が、わたしは嫌いではなかった。
「誰かがわたしの名前を呼んで、どこかに連れて行こうとするの」
12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/05/18(土) 08:05:15.81 ID:0FhXK3hqo
「その人は、何かを言っていたんですか?」
「分からないけど、"駄目だ"って」
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2013/05/18(土) 08:06:07.05 ID:0FhXK3hqo
その声をきいて、わたしはようやく安心した。
最初から、気にするような夢じゃないと、そう笑い飛ばしてくれれば、わたしはそれでよかったのだ。
「でも、夢は夢ですから」
14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/05/18(土) 08:07:37.82 ID:0FhXK3hqo
屋敷で生活していると、ときどき無性に寂しいような、悲しいような気持ちに襲われることがある。
なぜなのかは分からない。いったい何がそうさせるんだろう。
シラユキが作ってくれる食事はとても美味しい。
15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/05/18(土) 08:08:06.06 ID:0FhXK3hqo
つづく
16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/05/18(土) 08:21:26.12 ID:XJzHZwYD0
がんば
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2013/05/18(土) 09:20:18.42 ID:YOlvRmLAO
面白そうだ
18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/05/19(日) 09:54:53.77 ID:6wN2+WcTo
◇
散歩を終えて自室に戻ると、いつものように手持無沙汰になった。
とりあえず、机の上に置きっぱなしだった、読み止しの本を開いてみたりする。
19:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/05/19(日) 09:55:34.03 ID:6wN2+WcTo
とはいえ、書庫には分厚い百科事典も並んでいるし、たくさんの図鑑や写真もある。
だから、かろうじてその内容を理解することもできた。
かといって、わたしはその作業が特別好きだったわけではないのだけれど。
20:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/05/19(日) 09:57:10.95 ID:6wN2+WcTo
これまでは、この雨の音を聞きながら、本を一日中読み続けることも苦痛ではなかった。
でも、今日はひどく物憂い。身体を動かすのも億劫だ。
閉ざされているのだ、とわたしは感じる。
21:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/05/19(日) 09:59:15.20 ID:6wN2+WcTo
妙に気分が落ち着かなくて、何かを飲みたくなった。
わたしは部屋を出て、一階の食堂へ向かう。
たくさんの部屋があるこの瀟洒なお屋敷も、ふたりで使うには少し広すぎる。
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