過去ログ - 【モバマス】「幸子、俺はお前のプロデューサーじゃなくなる」
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1:以下、新鯖からお送りいたします[saga]
2013/09/04(水) 21:24:00.63 ID:DVgSD76f0
モバマス、輿水幸子のSSです
少しのあいだ、お付き合いいただければ幸いです

SSWiki : ss.vip2ch.com



2:以下、新鯖からお送りいたします[saga]
2013/09/04(水) 21:27:13.27 ID:DVgSD76f0
 真新しいドレスに袖を通し、メイクさんのお化粧が終われば、逃げ場はもうない。
 立ち上がると、気を利かせたメイクさんが、おっきな姿見を転がしてくる。
 ヤダなあ。
 まあ、でも、見ないわけにはいかないし。
 この目で、今日のボクを見てみよう。
以下略



3:以下、新鯖からお送りいたします[saga]
2013/09/04(水) 21:27:43.86 ID:DVgSD76f0
 部屋に入ると、高い天井と、柔らかな光と、たくさんの人たち。
 その瞬間、空気が重みをもって、ボクを押し潰そうと迫ってくるよう。
 ボクと同じ立場の人なら、この感じ、絶対に分かるはず。
 おおげさな言い方だけど、今日のボクは主役のひとりだ。
 ボクに向けられる視線には、何かしらの感情が込められてる。
以下略



4:以下、新鯖からお送りいたします[saga]
2013/09/04(水) 21:29:16.61 ID:DVgSD76f0
 なのに。
 終わりは突然。
 握手会終わりの、しとしと雨が降る夕暮れ時だった。
「幸子、大事な話がある」
 プロデューサーが運転する社用車には、仄かに煙草の臭いがかおる。つんと鼻を刺すこの臭いがボクは嫌いだ。なんだか自分が拒まれているみたい。
以下略



5:以下、新鯖からお送りいたします[saga]
2013/09/04(水) 21:30:15.02 ID:DVgSD76f0
 息が止まる。
 全身が押さえつけられたみたいに重くなって、目の前の景色がぐわんと歪む。
 視界がぐっと狭まり、喉からおかしな息がひゅっと漏れた。
 やばい。
「幸子!」
以下略



6:以下、新鯖からお送りいたします[saga]
2013/09/04(水) 21:31:18.98 ID:DVgSD76f0
 翌日、無断でレッスンを欠席した。
 だけど、家でぼんやりと過ごす時間は予想外に辛かった。心も体も溶け出してしまいそう。
 次の日、だめもとでスタジオに行ってダンスレッスンに顔を出してみた。追い返されるかと思ったけど、あっさりと許可が出る。すごく助かる。今は存分に体を痛めつけたい気分だった。
 大音量で流れているのは、心を芯から震わせるような激しい曲だ。一音一音が刃みたいだなと思う。切れ味鋭い刃に身を投げ出すようにして、ボクは踊りをおどりだす。
 だけど、踊り回る体を置き去りにして、ボクの頭に浮かぶのは彼のことばかり。引っ込み思案だったボクの手を引いてくれた、彼の手のあたたかさを思い出す。笑顔ひとつ上手くつくれないボクをあちこちに連れ回してくれたっけ。
以下略



7:以下、新鯖からお送りいたします[saga]
2013/09/04(水) 21:32:01.32 ID:DVgSD76f0
 ボクは世界で一番カワイクなんてなくて。
 世界で一番綺麗なんてことはもちろんなくて。
 知ってる。
 でも。
 彼が信じる輿水幸子は、きっと、世界で一番かわいくて、きれいだ。
以下略



8:以下、新鯖からお送りいたします[saga]
2013/09/04(水) 21:32:59.13 ID:DVgSD76f0
 トレーナーさんにスタジオから連れ出され、誰もいないベンチへと。
「貴方達のことは、だいたい聞いてる」
「ボク、プロデューサーさんに捨てられたんです」
「その言い方は誤解を招く」
 トレーナーさんが困ったような声を出す。
以下略



9:以下、新鯖からお送りいたします[saga]
2013/09/04(水) 21:33:57.00 ID:DVgSD76f0
 事務所に戻ると、緊張感のある空気が漂っている。
 複雑な視線がいくつもボクに向けられて、それだけで事情を察した。
 足早に廊下を駆けて、社長室へと向かう。
 息を切らせて、扉の前に立つ。
 呼吸を整え、意を決してノックをしようとした。
以下略



10:以下、新鯖からお送りいたします[saga]
2013/09/04(水) 21:34:31.45 ID:DVgSD76f0
 返事も待たずにドアを開け放ち、唖然とした表情の彼と社長の前に立つ。
「面白い話をしてるじゃないですか、プロデューサーさん。ボクも混ぜていただけますか?」
「幸子、お前、何を」
 ボクは不敵な笑みを浮かべ、胸を張り、なけなしの虚勢を振りかざす。
「ボクにプロデューサーさんが必要? 面白いことを言いますねえ。いいですか、よく聞いて下さい。世界で一番カワイイボクに! 世界で一番キレイなボクに! 必要なものなんて、何もありはしませんよ!」
以下略



11:以下、新鯖からお送りいたします[saga]
2013/09/04(水) 21:35:14.80 ID:DVgSD76f0
 その後、人事異動が撤回される、なんてことは当然なくて。
 ボクはボクの、そして彼は彼の、互いの道を行くことになる。
 事務所は同じだから、また新たな縁を持つこともあるはずだ。
 その頃、ボクは、名実共に世界で一番カワイイアイドルになっている予定だ。

以下略



12:以下、新鯖からお送りいたします[saga]
2013/09/04(水) 21:40:19.19 ID:DVgSD76f0
以上です。
お読みくださり、ありがとうございました


13:以下、新鯖からお送りいたします[sage]
2013/09/04(水) 21:49:23.32 ID:pX4j5lzIo
乙乙
なんかしんみりきちゃうな
で、森久保編はいつですか


14:以下、新鯖からお送りいたします[saga]
2013/09/04(水) 21:57:05.95 ID:DVgSD76f0
以下、森久保編です
これでおしまいとなります


15:以下、新鯖からお送りいたします[saga]
2013/09/04(水) 21:58:01.92 ID:DVgSD76f0
 電車を降りて徒歩五分。
 下り坂の向こう、ぐねぐね曲がりくねった道を行く。
 切れかけの街頭はちかちか光り、河の下水はごぼごぼ歌う。
 大通りから一本逸れた、悲しいほどに静かな路地の、その隣。
 事務所から一駅離れたこの場所に、夏休みの間だけ、お母さんが借りてくれた家がある。
以下略



16:以下、新鯖からお送りいたします[saga]
2013/09/04(水) 21:58:47.83 ID:DVgSD76f0
 マンションに戻ると、103号室の前、セミの代わりに男の人が立っていた。
「ひっ」
 男の人が振り返る。
「森久保さんですか?」
「そうですけど……」
以下略



17:以下、新鯖からお送りいたします[saga]
2013/09/04(水) 21:59:17.85 ID:DVgSD76f0
『お元気ですか、乃々』
 という書き出しの、達筆な文字。
『貴方がアイドルになったと聞いて、嬉しく、誇らしく思います』
「……ただの、偶然ですけど……」
『昔から頑張り屋な貴方ですし、根を詰めすぎていることでしょう』
以下略



18:以下、新鯖からお送りいたします[saga]
2013/09/04(水) 22:00:17.09 ID:DVgSD76f0
 寝坊して、遅刻した。
 涙で腫らしたひどい顔のまま、電車に飛び乗って事務所に行った。
 プロデューサーさんは何も言わなかった。かえってそれが怖かった。
「すみません……」
 こちらからそう言ったきり、目も合わせずに駆け出した。
以下略



19:以下、新鯖からお送りいたします[saga]
2013/09/04(水) 22:00:51.76 ID:DVgSD76f0
「面白そうな話をしてますね。ボクに続きを聞かせてもらえますか?」
 一瞬の静寂が訪れる。
 戸惑うような空気がトイレに満ちていく。
「いえ、何でも……すみません、失礼します。ほら、行くよ」
 数人の足音が遠ざかっていく。
以下略



20:以下、新鯖からお送りいたします[saga]
2013/09/04(水) 22:01:30.16 ID:DVgSD76f0
 翌日、事務所に向かう電車で急にお腹が痛くなった。
 座席で体を丸めるみたいにしていたら、降りる駅を通り過ぎていて、気がつくと痛みは引いていた。
 もうどうしたって間に合わないと気づいた時、ほっとしてしまったことに自己嫌悪。
 引き返す気にもなれなくて、適当な駅で降りてみる。
 駅前はとても賑わっていて、若い人たちの姿が目立つ。
以下略



21:以下、新鯖からお送りいたします[saga]
2013/09/04(水) 22:02:21.65 ID:DVgSD76f0
 プロデューサーは店内に戻り、今度は両手に袋を抱えて出てきた。
 片方を手渡される。
 中身はお茶とサンドイッチだ。
 プロデューサーが、駐車場の、日陰になった縁石に腰を下ろした。
 そのまま、弁当の包みを剥き始めたので、私も近くの縁石に座った。
以下略



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