1: ◆QkRJTXcpFI[saga]
2012/11/30(金) 11:54:33.68 ID:nlsr789Z0
「美味そうな飯、見ィつけた」
少年「!?」キョロキョロ
「ここだここ。もっと上」
少年は不可解な存在を目にした。
塀の上に腰掛ける、少なくとも人間ではない灰色のナニカ。
化物と呼ぶには頼りなく、幽霊と呼ぶにはコミカルな、異質の存在。
「少年、君の欲望を一つ叶えてやろう」
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2: ◆QkRJTXcpFI[sage saga]
2012/11/30(金) 11:56:44.20 ID:nlsr789Z0
それなりに長い。普通に短編ぐらいある。
地の文が多い。
途中で俺の思想が混じっちまったから見るに絶えないかもしれない。
以上三点気をつけて、どぞ。
3: ◆QkRJTXcpFI[sage saga]
2012/11/30(金) 11:57:10.92 ID:nlsr789Z0
少年「……」フルフルフル
「なんだ? 君、もしかして喋れなィのか?」
少年「……」クルッ ダッダッダッダッダッ
4: ◆QkRJTXcpFI[sage saga]
2012/11/30(金) 11:58:01.29 ID:nlsr789Z0
改めて少年は"異質"を目の当たりにして、蜃気楼のようだと怯えた。
化物めいた輪郭はあれど、ゆらゆらと動くそれに実態は伴っていそうもない。
幼少の頃に熱中していたヒーロー番組を思い出す。
欲望を叶える代わりに魂を奪う化物。確かそんな敵役がいた筈だと。
5: ◆QkRJTXcpFI[sage saga]
2012/11/30(金) 11:58:49.24 ID:nlsr789Z0
「とんだ自己犠牲精神だ。君はきっと良き英雄になれるだろう。
けれど俺が望んでィるのは英雄じゃなくて、餌だ。理解できるか?」
少年「……」ギュッ
6: ◆QkRJTXcpFI[sage saga]
2012/11/30(金) 11:59:43.55 ID:nlsr789Z0
半ば無意識のふらついた足取りでなんとか自宅に辿りついた少年は、
一も二もなく自室に入ってベットに倒れた。
いつしか眠りこけて、ぼんやりとした夢を見る。
夢の中には形容し難い美があった。
7: ◆QkRJTXcpFI[sage saga]
2012/11/30(金) 12:00:22.75 ID:nlsr789Z0
あの日のことは白昼夢だったのだろうかと考え始めた一週間後。
それまで何一つ起こらなかった少年の心に、些細な変化が現れた。
男子「おい、俺の代わりにやっといてくんねえ?」ニヤニヤ
8: ◆QkRJTXcpFI[sage saga]
2012/11/30(金) 12:00:50.65 ID:nlsr789Z0
少年「……」
少年は口も開かず、かといって箒も取らずに立ち尽くした。
産まれてこの方、湧いたことのない感情に戸惑っている。
9: ◆QkRJTXcpFI[sage saga]
2012/11/30(金) 12:01:38.89 ID:nlsr789Z0
それからも"蜃気楼"によるものだと思われる感情操作は続いた。
その度に少年は得たことのない感情から不安になり、心から恐怖した。
「それが哀しィってことだ。
君は今まで現実を直視してィなかったから、哀しみを覚えたことはなかったようだな」
10: ◆QkRJTXcpFI[sage saga]
2012/11/30(金) 12:02:36.29 ID:nlsr789Z0
日毎に"蜃気楼"の声は大きくなり、言葉数は比例して増えていく。
「不思議なものだな。姿形を成してなィ俺の方が人間らしくて、
人から産まれて人型の君に感情が欠乏してィる。
人間はなにを以て人間と定める? なんて、少々哲学が過ぎるが。
11: ◆QkRJTXcpFI[sage saga]
2012/11/30(金) 12:03:09.94 ID:nlsr789Z0
"蜃気楼"は事あるごとに少年へ話しかけた。
感情云々だけではなく、くだらない内容の話も次第に増えた。
「おお、少年。これはなんだ、なんとィう食べ物だ」
12: ◆QkRJTXcpFI[sage saga]
2012/11/30(金) 12:03:54.49 ID:nlsr789Z0
男子「おい、宿題みせろ」
何度も何度も巫山戯た男だと、半ば少年に自分を重ねて"蜃気楼"は怒りの種を蒔いた。
少年「……」
13: ◆QkRJTXcpFI[sage saga]
2012/11/30(金) 12:04:44.14 ID:nlsr789Z0
ある日の日曜日、少年は"蜃気楼"の要望により散歩をしていた。
「散歩に行こう、少年」
少年「……嫌」
14: ◆QkRJTXcpFI[sage saga]
2012/11/30(金) 12:05:28.14 ID:nlsr789Z0
「とりあえず人の多ィ街に出よう。閑静な住宅街では感情の動きようがなィ」
電車に乗って三十分。少年は滅多に訪れることのない都会に着いた。
「さて、適当にぶらつくとしようか」
15: ◆QkRJTXcpFI[sage saga]
2012/11/30(金) 12:06:29.26 ID:nlsr789Z0
結局無駄足だったかと二時間程少年を歩かせて"蜃気楼"は諦めかけていた。
その時、偶然にもありがたい事故に会う。
女「あれ? 少年くん?」
16: ◆QkRJTXcpFI[sage saga]
2012/11/30(金) 12:07:51.16 ID:nlsr789Z0
「ならば哀しみの種はどうだ。
ここまで気にかけてくれてィるのに、なにも返せなィ自分を悔やむんだ」
しかしその種もまた恐怖が飲み込んでしまう。
暗雲が轟く空の下で"蜃気楼"は唐突に笑顔になった。
17: ◆QkRJTXcpFI[sage saga]
2012/11/30(金) 12:08:47.82 ID:nlsr789Z0
「どれだけだ! どれだけ君は怯えてィれば気が済むんだ!
好きな子と偶然ばったり出会ったのだろう!? 喜べよ! 両手を挙げて喜べよ!」
「ここは〈ど、どうしよう、なに話したらィィんだろう〉って困惑する場面なのだよ!
それでも男の子か君はあああああああああ!」
18: ◆QkRJTXcpFI[sage saga]
2012/11/30(金) 12:09:17.78 ID:nlsr789Z0
少年「はあ……はあ……――あ……」
女「」ポロポロ ポロポロ
常に騒がしい街が一時だけ静まり返り、少年へ注目が集中した。
19: ◆QkRJTXcpFI[sage saga]
2012/11/30(金) 12:09:53.07 ID:nlsr789Z0
「どうなってんだ?」
"蜃気楼"は目を疑った。
20: ◆QkRJTXcpFI[sage saga]
2012/11/30(金) 12:10:35.34 ID:nlsr789Z0
「とにかく、俺の激情が少年に作用したとしか考えられなィ。
それにしても……怒りとはこれほどまでに疲れるものだったか?」
感情の起伏が乏しいのではなく、理性で事象を処理する存在。
そしてずっとそうであった"蜃気楼"は、感情に身を任せたことがない。
21: ◆QkRJTXcpFI[sage saga]
2012/11/30(金) 12:11:03.87 ID:nlsr789Z0
例えばこんな話がある。
世界の文化がまだ発達していなかった時代に、象を売ろうと考えた商売人がいた。
商売人は歩き続けて象を宣伝したが、誰もが象を買っても使い道がないと断った。
ならば異国の象を知らない者に売ればいいと考え、商売人は遠い辺境の国に訪れた。
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