1:前に書いたものの焼き直しです
2014/11/05(水) 19:59:32.24 ID:7XpzpOnTO
prologue
僕はオレンジ色の種を一粒蒔いた。
彼女がのこしたその種を柔らかい土の小さな穴に、そっと埋めた。
「夢の花は季節に関係なく咲く。
育てる人の叶わなかった夢が花の唯一の栄養となるから。
でも室温は高すぎたり低すぎたりしないようにしてね。
それと水を毎日あげること!」
彼女が種とともにのこした癖字で書かれたメモを読み返す。
もう何度目になるかも分からない。
僕は小さな黄色いジョウロで少しだけ水をかけた。
茶色い土は黒っぽくなった。
やがてプラスチック製の茶色いプランタに埋められた種は芽を出し、生長し、花を咲かせるのかもしれない。
咲かせないのかもしれない。
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2014/11/05(水) 20:01:22.34 ID:7XpzpOnTO
しばらくプランタの中を覗き込んだ後、顔を上げて空を見た。
秋晴れの空には、細かにちぎれた雲が列状に行儀よく並んでいる。
そのうち雨が降るかもしれないし、降らないかもしれない。
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2014/11/05(水) 20:02:40.32 ID:7XpzpOnTO
1
彼女は物事の悲観的な部分に美しさを見出す人だった。
幸福より不幸に、生より死に、ハッピーエンドよりバッドエンドに、出逢いより別れに。
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2014/11/05(水) 20:07:09.66 ID:7XpzpOnTO
彼女は何者だったのだろう。
僕には分からない。
手紙の告白は何の答えにもなっていない。
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2014/11/05(水) 20:11:48.93 ID:7XpzpOnTO
「傷つくな。泣いてしまいそうだ」
冗談だと分かるような口調と表情を作るが、実際は言葉通りの心境だった。
僕はお調子者を装うことが多々あるけれど、それは真面目に他人と関わる自信がないからだ。
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2014/11/05(水) 20:14:25.54 ID:7XpzpOnTO
僕はまじまじと見つめてくる彼女の視線を逸らせようとして、別の話題を振る。
「それよりも、向こうで男と女二人で言い合ってる。
修羅場ってやつじゃないか……」
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2014/11/05(水) 20:16:22.65 ID:7XpzpOnTO
彼女に対して罪悪感が湧き上がっていた。
他人の誠実に、素直に返すことのできない自分の情けなさに苛立ちも覚えていた。
「じゃあ俺、まだ講義があるから」
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2014/11/05(水) 20:17:46.98 ID:7XpzpOnTO
それからしばらくは何となく物憂げな気持ちで生活を送っていた。
梅雨の天気が憂鬱な気持ちを助長させていた。
新生活を送る上での少しの無理が応えてきてもいた。
それでも僕はお調子者のふりを無意識に続けてしまう。
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2014/11/05(水) 20:19:53.07 ID:7XpzpOnTO
「最近、暗いね」
「そう……」
10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2014/11/05(水) 20:21:49.17 ID:7XpzpOnTO
僕が何も言い返さずに顔を伏せていると、彼女は再び口を開いた。
「別に彼とは何もないよ。
あなたも彼が浮気をしたところを見たでしょ……。
あなたが私から逃げた後に、声をかけて相談に乗っただけ。
11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2014/11/05(水) 20:24:56.19 ID:7XpzpOnTO
「分かったよ。
それで、どんな相談だよ。
うまく復縁して二股したいって相談かよ」
12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2014/11/05(水) 20:25:53.49 ID:7XpzpOnTO
自分でも驚くほど素直な言葉が出た。
そして、言って怖くなった。僕の誠実が否定されるのはたまらなく恐ろしかった。
僕は自分の臆病さで誰かの誠実を踏みにじったのかもしれないのに。
13:原題は『夢の花』です。
2014/11/05(水) 20:29:05.61 ID:7XpzpOnTO
2
梅雨が去っていくのと同じころから彼女が僕の家を訪れるようになっていた。
14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2014/11/05(水) 20:32:12.07 ID:7XpzpOnTO
映画といえば、彼女はよく同じ映画をかけていた。
そしていつも同じ場面で泣いていた。
その映画は悲恋の物語だった。
15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2014/11/05(水) 20:39:05.04 ID:7XpzpOnTO
「君らしいね。それで、手に持ってる植物はなに……」
「夢の花」
16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2014/11/05(水) 20:41:42.39 ID:7XpzpOnTO
彼女はベランダに植物を移した。
僕のベランダは午前の間は陽が射すけれど、午後になるほとんど日陰なる。
別にそれでもいいなら自由に使ってもらって構わなかった。
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2014/11/05(水) 20:45:56.69 ID:7XpzpOnTO
「今の大学は、本当は第一志望じゃなかったんだ」
少し考えて最初に思いついたのは大学受験での失敗だった。
一番新しい挫折だった。
18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2014/11/05(水) 20:47:45.10 ID:7XpzpOnTO
「あなたも色々と失敗してるんだね」
「君はどうなの……。
君の叶わなかった夢はなに……」
19:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2014/11/05(水) 20:48:55.63 ID:dzCEmSnwO
見てるで
つ[缶コーヒー]
20:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2014/11/05(水) 20:49:45.06 ID:7XpzpOnTO
3
夏休みも終わりに近づいて、僕はいい加減地元に帰省することにした。
帰るのにもそれなりに金がかかるし、億劫だったから、盆も帰らなかったけれど、母親が帰省しないならもう仕送りをしないと脅してきた。
21:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2014/11/05(水) 20:51:01.65 ID:7XpzpOnTO
>>19
ありがとう!
コーヒーは好きです。
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