1:オータ ◆aTPuZgTcsQ[saga sage]
2016/02/10(水) 05:00:23.39 ID:/p0Ll9udO
僕は今日もパトロールへと出発して、キラキラと輝くお日様の光の中を飛んでいた。
賑やかな街からは子供たちの笑い声や、お母さんたちの優しい声が聞こえ、お父さんたちが一生懸命働く姿も見える。
そんな彼らは、僕を見ると笑顔で手を振ってくれた。
僕もみんなに手を振り返して、今度は森の方の様子を見に行くことにした。
しばらく青々と繁った木々の上を飛んでいると、突然緊張した声が辺りに響いた。
僕は急いでその声の方へ飛んでいき、池で溺れているかばお君を発見する。
顔を濡らさないように、けれども素早くかばお君を引き上げて、僕はかばお君を池の縁へ連れていった。
彼の無事を確認して、池のほとりで泣いていたうさこちゃんは、ほっとして笑っていた。
「ありがとうアンパンマン」
うさこちゃんとかばお君が笑いながら僕を見てくれたので、僕は心が温まるのを感じた。
二人を残して飛び立とうとする僕を、かばお君が引き留める。
「僕たち、元気が出るものを探してるんだ。
アンパンマンも手伝ってくれないかなぁ」
「うん、いいよ。でも、どうして元気が出るものを探しているの?」
かばお君とうさこちゃんは顔を見合わせて、困ったように眉を下げた。
「ちびぞう君が、なんだか元気がないの。
風邪をひいた訳じゃないのに、顔も見せてくれなくって」
「僕たち心配だから、なにか元気が出そうなものを持っていってあげたいと思ったんだ」
「へぇ、そうなんだ。一体どうしたんだろう、ちびぞう君」
お母さんに怒られたのか、大事なものをなくしたのか、それとも怖い夢を見てしまったのか。
原因が分からないとなんとも言えないけど、僕は元気が出そうなものは思い当たった。
「僕は、ジャムおじさんのパンなら元気がでそうじゃないかと思うけど、どうかなぁ」
「そっか!ジャムおじさんのパンならいくらでも食べられるもんね!」
「そうね!アンパンマン、ジャムおじさんにお願いしに行ってもいい?」
「もちろんだよ。パン工場まで僕が乗せていってあげるね」
「わーい!ありがとう!」
二人を背中に乗せて、僕は綿菓子のような雲が浮かぶ空へと飛び立った。
あっという間におもちゃのように小さくなる森を、二人ははしゃぎながら見ている。
その賑やかな声を聞いていると僕まで嬉しくなって、向こうの空から飛んできた鳥と一緒に飛んで、パン工場へと向かった。
SSWiki : ss.vip2ch.com
2:名無しNIPPER[sage saga]
2016/02/10(水) 05:02:05.80 ID:/p0Ll9udO
しばらく街や森の上を飛んで、僕たちはパン工場へたどり着いた。
かばお君とうさこちゃんは、ぴょんと僕から飛び降りてパン工場の扉を開ける。
中の工房では、ジャムおじさんとバタコさんとチーズがお茶を飲んでいた。
3:名無しNIPPER[sage]
2016/02/10(水) 05:03:13.68 ID:A1psEaODO
ジャムおじさんもバタコも妖精だが息子とかありえるのだろうか
4:名無しNIPPER[saga sage]
2016/02/10(水) 05:04:57.21 ID:/p0Ll9udO
「こんにちは」
5:名無しNIPPER
2016/02/10(水) 05:05:59.55 ID:/p0Ll9udO
>>3
固いこと言わないでー
6:名無しNIPPER[saga sage]
2016/02/10(水) 05:07:31.69 ID:/p0Ll9udO
ふと呼び止められて、僕たちはちびぞう君の家の方へ振り帰る。
すると、中に入ったはずのでかこ母さんが扉の前に立っていた。
「ごめんなさいね、ちびぞうがアンパンマンに会いたいって」
7:名無しNIPPER[sage saga]
2016/02/10(水) 05:09:58.16 ID:/p0Ll9udO
彼らの後ろ姿を見送って、僕はでかこ母さんに教えられた通り、ちびぞう君の部屋を目指す。
こんこん、と扉を叩くと、ちびぞう君が顔を出した。
「どうしたの?ちびぞう君。みんな君のこと心配しているよ」
8:名無しNIPPER[saga sage]
2016/02/10(水) 05:11:49.23 ID:/p0Ll9udO
「ぼく、お母さんの本棚にあった、ミステリー小説っていうのを読んだんだぞう。
そうしたら……その……」
「どうしたの?」
9:名無しNIPPER[sage saga]
2016/02/10(水) 05:13:13.66 ID:/p0Ll9udO
「ちびぞう君!大丈夫!?」
「うん、もう平気だぞ!アンパンマンが助けてくれたんだぞう」
10:名無しNIPPER[saga sage]
2016/02/10(水) 05:15:48.43 ID:/p0Ll9udO
遠くにパン工場の煙突が見えて、見慣れた赤い屋根も見えてきた。
僕は一目散に飛んでいきたかったけど、なんでそうしたいのか分からなかったから、ゆっくりと飛んだ。
そして、バタコさんとメロンパンナちゃんが植えた花壇を見ながら、パン工場の扉の前に着地する。
花はいつも通り綺麗に咲いているのに、僕はその花を綺麗だと思えなかった。
11:名無しNIPPER[sage saga]
2016/02/10(水) 05:16:58.47 ID:/p0Ll9udO
「お帰り、アンパンマン」
12:名無しNIPPER[saga sage]
2016/02/10(水) 05:18:03.14 ID:/p0Ll9udO
「あの……それなら、ロールパンナちゃんはどうなんでしょう」
13:名無しNIPPER[sage saga]
2016/02/10(水) 05:21:26.29 ID:/p0Ll9udO
窓の外の真っ暗な闇が次第に暖かみを帯びて、お日様の光が僕の部屋にも差し込んでくる。
かなり早起きしてしまった僕は、輝く朝日を静かに眺めていた。
空は昨日と同じように青く、いつもと同じような雲が浮かんでいる。
僕はその一つ一つに安心しながら、身支度を整えた。
14:名無しNIPPER[saga sage]
2016/02/10(水) 05:24:05.21 ID:/p0Ll9udO
そして、しばらく忙しそうな音が続いて、パン工場の扉をノックする音が響く。
「こんちはー!」
15:名無しNIPPER[sage saga]
2016/02/10(水) 05:30:48.53 ID:/p0Ll9udO
「おい!アンパンマン!」
16:名無しNIPPER[saga sage]
2016/02/10(水) 05:36:09.25 ID:/p0Ll9udO
しかし、僕たちはなにを話したらいいか分からなくて、少し時間を持て余した。
無言の時間に息苦しさを感じて、カレーパンマンが僕に話しかける。
「そういえば、さっきジャムおじさんになにか話しかけようとしてたよな。
17:名無しNIPPER[sage saga]
2016/02/10(水) 05:37:29.12 ID:/p0Ll9udO
「でも、どうしてパン工場に住まなくなったの?」
「それはさ、俺はすごいやつだから、もう一人でも大丈夫だなって思って」
18:名無しNIPPER[sage saga]
2016/02/10(水) 05:39:18.26 ID:/p0Ll9udO
「ばいきんまんがお前を殺そうとしてる?そんな訳ねぇだろ」
「そうなのかな」
19:名無しNIPPER[saga sage]
2016/02/10(水) 05:40:35.16 ID:/p0Ll9udO
「カレーパンマン?」
「ああ、いや、まーさ」
20:名無しNIPPER[sage saga]
2016/02/10(水) 05:43:37.98 ID:/p0Ll9udO
カレーパンマンがパトロールに出掛けてくれてからしばらく経って、外のお日様が傾き始めた頃。
窓ガラスを通って、オレンジ色の光が僕の部屋の中を照らした。
まるでオレンジジュースの中を泳いでいるような綺麗な光を、僕はぼんやりと眺めていた。
こんなにゆっくりしたのは久しぶりで、僕はどうしたらいいか分からなかったから、今はただ夕日に包まれていたいと思った。
21:名無しNIPPER[saga sage]
2016/02/10(水) 05:44:42.60 ID:/p0Ll9udO
「あの……これは僕のなんでしょうか?」
「うん、まぁ、そういうことね」
58Res/91.13 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。