過去ログ - 高森藍子「菜々さんへの誕生日プレゼントが思いつかない……」
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1:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 21:55:17.98 ID:5maGnF/Q0
――5月8日――

困った。

どうしよう。

なんて思いつつ、高森藍子は楽しげに微笑んでいた。



※単発作品、地の文つきです。



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2:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 21:55:49.14 ID:5maGnF/Q0
「どうしよっかなー……」

ベッドの上に雑誌を並べる。流行の特集にはあまり縁がなかった。ファッションの話で1日を過ごしたり、少ないお小遣いをやりくりして着飾ったり、藍子にはそんな経験があまりない。あるとしたらアイドルの時だけで。衣装を選んだり取材を受けたり、そんな時くらい。
詳しそうな北条加蓮から一通りの雑誌を借りてはみたものの、かれこれ3時間ほどにらめっこして、藍子の中では何も進展していなかった。
1週間後の、5月15日の。
以下略



3:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 21:56:25.43 ID:5maGnF/Q0
「……どっちの方がいいのかな?」

雑誌を閉じて、窓の外を見てみる。
よく晴れた日だ。外に出たい。ゆっくりと歩きながらだったら、いいアイディアも……いいや、きっと浮かばない。
周りの風景に目をとられて、帰ってきた時には日が暮れて目的を忘れてしまっているだろうから。
以下略



4:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 21:56:55.29 ID:5maGnF/Q0
「う〜〜〜〜ん……」

どうしてか分からないけれど、相談してみるという選択肢は浮かばない。意地を張ってみたいと決めて、ずっと時間を使っている。
……また雑誌をめくれば思いつくかな?
視線を落とす。10分くらい、目をあっちへやって、こっちへやって。
以下略



5:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 21:57:25.86 ID:5maGnF/Q0
ベッドの隅に投げていたスマートフォンを、指先で引き寄せる。
待ち受けに表示されているのは加蓮と菜々の笑顔。冬から春にかけての頃、事務所に行ったら2人がソファにて肩を預け合いながらうたたねしていた。
いつもいろいろな表情を見せる加蓮と、いつもいっぱいいっぱい必死に踏ん張る菜々が、揃って遊び疲れた子どものような顔をしていて、思わず1枚。
たぶんバレてはいない。……たぶん。

以下略



6:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 21:57:55.37 ID:5maGnF/Q0
清白なシーツを親指と人差し指で摘み、こすりあわせて、それから未練を消し去るかのように思いっきり大の字になった。雑誌がぱさりと音を立てて跳ねる。
目に髪が軽くかかるのをそのままにして、考える。

悩むことはけっこう好きだ。特に、誰かにプレゼントをする時は。
何がいいかな。何が似合うかな。喜んでくれるかな。
以下略



7:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 21:58:56.42 ID:5maGnF/Q0
どうして、菜々の誕生日プレゼントが思いつかないのだろう?
想像ができないから?
それは、どうして?

「あっ……もしかして」
以下略



8:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 21:59:46.77 ID:5maGnF/Q0
――5月9日――

学校帰りに事務所へ向かった。ドアを開けると、菜々とPの話し声が耳に飛び込んできた。

「――だーかーらー、千葉県の特産じゃなくてウサミン星の特産なんですぅ〜!」
以下略



9:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 22:00:36.84 ID:5maGnF/Q0
「ふふっ。菜々さんとPさんのお話があまりに白熱しているみたいなので、つい。……Pさん。あんまり、菜々さんをいじめちゃだめですよ?」
「う゛。い、いやぁ……いじめてる訳じゃないんだ」
「だってPさん、すっごくいじわるそうな顔をしてますから」
「藍子に言われちゃお手上げだな」

以下略



10:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 22:01:26.69 ID:5maGnF/Q0
「ホント、藍子ちゃんのお茶はいつでもバッチリですね! これならいつメイドカフェに来ても大丈夫ですよぉ!」
「あはは……メイドカフェに行くことは、ちょっとないかも……?」
「ふむ。そういえばアイドルのメイドカフェ体験イベントに枠があったような」
「そ、それは菜々さんにお譲りしますっ」

以下略



11:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 22:02:16.83 ID:5maGnF/Q0
「ま、まさか顔に出てます?」
「……顔に?」
「そのー、ですね。最近ちょっと忙し気味というかオーバーワーク気味というか。そのせいで寝るのが遅くなって……お肌のケアはいつも欠かしていないつもりですがやっぱりなんか出てます!? ナナ、カメラに映れる顔になってます!?」
「……………………」

以下略



12:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 22:03:06.58 ID:5maGnF/Q0
「Pさぁん!? やめっ、やめてくださいよ! ただでさえPさんに加蓮ちゃんがアレなのにっ……それに藍子ちゃんはほら冗談とかを真に受けかねませんし!? ほらっなんかPさんの言葉を疑ってないって顔だしっ……あ、藍子ちゃんはそんなことしませんよね!? ウサミンをいじめたりしませんよね!?」
「だ、大丈夫ですっ、あはは……」
「大丈夫って風に見えないんですが!? 何か誤魔化してますよね!? Pさんが余計なこと言うからですよ!? どうしてくれるんですか!?」
「え、俺のせい?」

以下略



13:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 22:03:56.70 ID:5maGnF/Q0
――5月11日――

In物陰。

「お、お疲れさばでず、加蓮ぢゃん……」
以下略



14:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 22:04:46.65 ID:5maGnF/Q0
いつ目が合ってしまうか、いつ加蓮が口元にイタズラを思いついた時の笑みを見せるか――
そんなことがあってはならなくて、あっては目的を達成できないからこうして隠れてしまっているのに、そのスリルがちょっぴり楽しい。
かくれんぼみたいで。

「さ、さすがにこの姿はそのぉ……見せたくないというか、見せられる訳がなくて……。で、でもPさんに助けてもらいたいって気持ちも……か、加蓮ちゃんなら分かってくれますよね? この矛盾!」
以下略



15:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 22:05:36.56 ID:5maGnF/Q0
「……でもま、それが楽しいんですけどね。無理なことができた時のあの快感! ファンにお披露目して、拍手をもらえた瞬間なんかはもうっ……!」
「相変わらず涙もろいなぁ。まだ本番まで何日もあるのに」
「この歳になると涙腺が弱くなるんですよ。加蓮ちゃんもそのうち分かりますから!」
「…………そだね。二十歳も後半になるとすぐ泣くようになったってお母さんも、」
「誰が二十歳後半じゃー!」
以下略



16:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 22:06:26.64 ID:5maGnF/Q0
「だいたい加蓮ちゃんこそ! 実はクタクタなのに無理してるってことありません!? ナナに気を遣うとか一切いりませんからね! さあさあ一緒に横になりましょう!」
「気なんて遣ってないって。私は私なりに全力出してるだけだし」
「どーだか。加蓮ちゃん、隠すの得意ですからねぇ」
「ここに来てからはそこまで得意じゃ……あ、でもガバガバなウサミンよりはマシだね、うん」
「失礼な!」
以下略



17:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 22:07:17.21 ID:5maGnF/Q0
「――こんにちはっ、加蓮ちゃん、菜々さん!」
「おっ。こんにちは、藍子」
「うっさみーんっ! 今日も藍子ちゃんは元気そうですねっ。ナナ、さっきレッスンがあったんですがハードすぎて……クタクタなんですよねぇ。その若い体が羨ましい――」
「あの、17歳……」
「ハッ! あ、えええと要はそのっ……こ、ここでウサミントリビア〜! 実は、地球での1年はウサミン星での10年で計算され、」
以下略



18:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 22:08:06.65 ID:5maGnF/Q0
<藍子おそーい
<サイダーが見つからないんじゃないですか? 藍子ちゃん、困ってるんじゃ
<藍子なら上手くやるでしょー

「ごめんなさーい、すぐに行きますっ!」
以下略



19:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 22:08:56.53 ID:5maGnF/Q0
――5月12日――

アイドルをやっている以上、ストーカーなどの不審者には気をつけろとPからよく言われる。
自分が被害者になるとは藍子は思っていない――加蓮やPからすれば「人気アイドルの自覚が足りない!」と怒られてしまうだろう。
それでも、何かよくないことに巻き込まれてしまったらアイドル仲間やPに迷惑をかけてしまうかもしれないから、多少の意識くらいはしているつもりだ。
以下略



20:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 22:09:46.63 ID:5maGnF/Q0
もう何度目かの自問自答になる。
例によって学校帰りに事務所に行って、菜々も藍子も軽いミーティングだけで終わった。それから菜々が「今日は用事があるのでお先に失礼しますね!」と言って、その後をなんとなく追いかけて……なんとなく、今に至る。

なんとなく。
なんとなく、としか言いようがない。
以下略



21:名無しNIPPER[saga]
2016/05/15(日) 22:10:36.59 ID:5maGnF/Q0
(じ……じゅうななさいっ!)

心の中で叫ぶだけに留めた自分を藍子は心の底から賞賛した。まかり間違って口に出していたら不審どころの騒ぎではない。下手すると菜々ともどもアイドルバレした挙句にウサミン星人=成人説が生まれてしまう。いや藍子が気遣わずとも既にバレバレなのかもしれないが、そこは、ほら、本人が隠しているのだから。そう、隠しているのだから"知っている"藍子も隠さなければならない。決して言い訳ではなくそれが正解なのだ。たぶん。

……ぐるぐると思考が沼に沈んでいく間に、菜々が一歩を踏み出した。
以下略



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