1: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/10/19(水) 17:49:44.75 ID:O4qi00qi0
短編集
1.夏のきらめき(神谷奈緒、若林智香)
2.気持ちを掬って(的場梨沙、輿水幸子)
3.世界レベルと個人レベル(ヘレン)
4.ススメ大人への道(日下部若葉、佐々木千枝)
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2: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/10/19(水) 17:51:39.32 ID:O4qi00qi0
1.夏のきらめき
恨めしそうな目も実に可愛らしい。俺は見当違いな感想を抱きつつ、奈緒の持つ企画書に視線をやった。
「どういうことだよこれ! なんであたしの名前があるんだ!?」
3: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/10/19(水) 17:52:50.48 ID:O4qi00qi0
と、そのときドアが開いた。ひょっこり部屋に入ってきた智香は、腰に届きそうなポニーテールをゆらゆら揺らして、こちらに歩いてきた。人懐こい笑顔に癒される。
「どうかしたんですか?」
「奈緒に水着の撮影が嫌だって抗議されてね」
4: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/10/19(水) 17:54:13.73 ID:O4qi00qi0
奈緒は困ったみたいに眉を寄せた。
「……まあ、そうかもしれないけどさ」
「本当に嫌なら無理しなくていいよ? 今ならまだ間に合うから」
5: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/10/19(水) 17:56:16.73 ID:O4qi00qi0
燦々と降り注ぐ陽光は、時折吹く熱気に近い風に揺れる、青いプールに拡散してきらきらと輝やかせた。
夏らしい、絶好の撮影日和。塩素の香りに懐かしさを覚えながら、奈緒は競泳水着、智香にはスクール水着を着てもらって撮影は始まった。
「奈緒ちゃん可愛いですね!」
6: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/10/19(水) 17:57:17.36 ID:O4qi00qi0
2.気持ちを掬って
バターンっと騒々しくドアは開かれ、バタバタと俺のデスクに駆け寄ってきた彼女は、バシーンっと書類をデスクに叩きつけた。
的場梨沙、激怒。なんてタイトルみたいな一文が浮かぶぐらいには怒り心頭な感じだった。鼻息の荒い梨沙の後ろには、息を荒くした輿水さん。どうやら一緒に走ってきたらしい。
7: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/10/19(水) 17:58:53.47 ID:O4qi00qi0
「それで、いったいなにをしたらここまで怒らせられるんです?」
梨沙はガルルとこちらを威嚇していて話にならない。輿水さんは困惑した様子で訊ねてきた。
「いやー、どうだろうね、なにか気に食わなかったのかな」
8: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/10/19(水) 18:00:38.11 ID:O4qi00qi0
謝っても梨沙はそっぽを向いて取り合ってくれない。どうしたものかと思索していると、輿水さんは仕方ないですねと呟いた。冷や汗が背中を伝う錯覚を覚える。
「その書類ですよね? 見せてください。第三者としてボクが判断しますから」
膠着した話にそろそろ疲れてきたらしい。輿水さんは呆れたようにいって書類を指差した。恐れていた展開だ。しかも梨沙まで、そうね幸子に判断してもらいましょ、と乗り気ときている。
9: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/10/19(水) 18:02:36.19 ID:O4qi00qi0
梨沙は大仰にため息を吐いた。怒りを通り越して呆れたらしい。こうなってくるとどっちが大人かわからなくなってくる。
「なんでこうも極端なのよ。全部合わせてちょうどいいぐらいだわ」
「本当に面目ない。俺もまさかここまでのものができあがるとは思わなかったんだよ。もちろん、決定じゃないから安心してくれ」
10: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/10/19(水) 18:04:16.93 ID:O4qi00qi0
輿水さんのバンジージャンプチャレンジが終わって、しっかりアイドルらしい活動になったのは衣装騒動から二ヶ月後。梨沙の衣装のデザインが決定した頃だった。
デスクにやってきた梨沙は明るく言う。
「アンタもやるときはやるのね。幸子、喜んでたわよ」
11: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/10/19(水) 18:06:06.03 ID:O4qi00qi0
3.世界レベルと個人レベル
つまるところ、ぼくと彼女に大した違いはない。
意識が外に向いているか、内に向いているかの違いだけだ。外にはぼくも含まれるし、内には彼女も含まれる。結局、意識している範囲の違いで、それでも、目指すべき先は同一なのだから差異なんて些細な問題だ。
12: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/10/19(水) 18:08:15.37 ID:O4qi00qi0
テレビ局での打ち合わせを終えてプロダクションへ戻る頃には、日は完全に落ちていて、定時もとっくに過ぎていた。
夏もそろそろ終わりだというのに、暑さはまだまだ居座ろうとしている。ロビーに入るとクーラーの涼しさが心地よかったが、汗のせいですぐに肌寒く感じた。
この仕事は業種柄、勤務時間にムラがあって、会社はまだまだ営業中。良し悪しの判断は捨て置こう。考えても、辞める気はないので意味はないのだ。
13: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/10/19(水) 18:09:53.06 ID:O4qi00qi0
「うわぁ、行きたくねー」
いっそ幻覚のほうがましだ。しかし、この状況を無視もできない。困惑した様子の後輩にだって謝らないと。
ため息を吐いてから、ぼくは部屋に足を踏み入れる。ぼくに気づいた後輩に目で悪いねと伝えると、安堵の色を浮かべて自分のデスクに戻っていった。ヘレンさんの前で立ち止まる。
14: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/10/19(水) 18:11:15.58 ID:O4qi00qi0
意味不明だけど、なんとなく納得させられてしまう。
世界レベルは伊達ではないらしい。
「で、なにやってんですか。レッスンはもう終わってるでしょう」
15: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/10/19(水) 18:12:55.68 ID:O4qi00qi0
きっと思いつきではなくて、初めからぼくを誘うつもりだったのだろう。
ヘレンさんの服装は白い無地のブラウスと、タイトなジーンズに濃い紫色のショルダーバッグ。普段と比べると地味と言えるし、換言すれば目立たない格好だった。
スーツの男と歩いても自然な格好。ヘレンさんは意外と気遣いのできる大人なのです。
16: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/10/19(水) 18:14:32.55 ID:O4qi00qi0
「塩二つ!」
「だそうです、お願いします」
カウンターに通されて、並んで座る。ヘレンさんは水の入ったコップを持ちながら、愉快そうに笑った。
17: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/10/19(水) 18:37:35.77 ID:O4qi00qi0
「あなたも世界レベルになりなさい! 小難しいことなんて考えないで、力で押し通すぐらいの気概を持つのよ!」
ラーメン屋を出て、駅に向かう道すがら、ヘレンさんは突然力説しだした。考えた結果、ぼくとは真逆の結論にたどり着いたらしい。
「私はあなたが持ってきた仕事なら、なんでも完璧にこなすわ! だからあなたはもっと気楽にいきなさい」
18: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/10/19(水) 18:38:42.92 ID:O4qi00qi0
「ヘレンさんは余計なことを考えなくていいのです。それはぼくの仕事です、個人レベルの話です。だから、ヘレンさんは堂々としていてください。些事はぼくに任せてください。わかりましたか?」
子供を叱るようにいうと、ヘレンさんは一瞬ぽかんとして、それからおかしそうに笑った。そうだ、この人はこれぐらい明るくいてくれた方がいい。世界レベルに小さな悩みは必要ない。
「ずいぶんと言ってくれるじゃない! さすがは私の認めたプロデューサーね! いいわ、そこまでいうなら、私はもうなにも言わないわよ」
19: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/10/19(水) 18:40:38.54 ID:O4qi00qi0
4.ススメ大人への道
「プロデューサーさんの思い描く大人らしさってなんですかー?」
給湯室からコーヒーを持って戻ると、ソファーに腰掛けている若葉さんに、昼休みのひと時に相応しい、間延びした柔らかい声音で首を傾げられた。手に持った結婚情報誌にでも触発されたのかもしれない。
20: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/10/19(水) 18:43:00.12 ID:O4qi00qi0
明るい落ち着きを持った声とともに千枝ちゃんがやってきた。結婚情報誌と俺たちの顔を交互に見て、驚いている様子だった。
「お疲れ。いや、違うよ? 結婚はしないよ?」
「なんですぐに否定するんですかー。プロデューサーさん、千枝ちゃんのこと好きすぎますよぉ」
21: ◆U7CecbhO/.[saga]
2016/10/19(水) 18:44:49.34 ID:O4qi00qi0
小学生になに教えてやがる。心で突っ込む。嬉しそうに真似をする千枝ちゃんの手前、注意もし辛かった。
「次はセリフ。私といいこと……」
言い切る前に、俺は立ち上がり若葉さんの頭を押さえる。
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