1: ◆auvPFY1.jw[saga]
2013/04/26(金) 14:50:47.17 ID:apyY2YgH0
 
 ぼくは、恋をしている。 
  
 それに気付いたのは、8月1日のことだった。 
 ぼくは、社長にプロデューサーとして雇われた。 
 この就職難の世の中で、ぼくを救ってくれたのだ。 
  
 最初は、女性への対応がわからなかった。 
 それを社長に伝えると、ぼくもだよ、と笑ってくれた。 
 社長の人の良さのおかげで、ぼくは上手くやっていけているのだ。 
  
 ぼくは、さくらの咲きはじめる4月に入社した。 
 今年で設立して2年目になります、と彼女は教えてくれた。 
 彼女は千川ちひろと名乗った。最初は、アイドルだろうと思っていた。 
  
 ちひろさんはぼくより1年先輩で、設立当時から勤めている。 
 仕事慣れしていることもあり、ぼくに親切に教えてくれていた。 
  
 最初はただ、美人だ、としか思わなかった。 
 けれど、いつしかぼくは彼女に惹かれていた。 
 それは8月1日…つまり、今日、気付いたのだ。 
  
 千川ちひろに、ぼくは、恋をしている。 
  
 
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2: ◆auvPFY1.jw[saga sage]
2013/04/26(金) 14:51:45.34 ID:apyY2YgH0
  
 ちらり、と時計を確認する。 
  
 2013年8月1日。今日は木曜日だ。 
 得意な書類事務を片付けていたときだった。 
3: ◆auvPFY1.jw[saga sage]
2013/04/26(金) 14:52:13.71 ID:apyY2YgH0
  
 「はい?」 
  
 ぼくが後ろを振り返ると、ちひろさんが嬉しそうに立っていた。 
 その端正な顔立ちには、どんな表情もよく似合う。 
4: ◆auvPFY1.jw[saga sage]
2013/04/26(金) 14:52:54.40 ID:apyY2YgH0
  
 コーヒーに手を付け、カップで顔を半分隠した。 
  
 呼吸を整え、ちひろさんをみた。 
 淡い栗色をした、ゆるやかに弧を描く髪。 
5: ◆auvPFY1.jw[saga sage]
2013/04/26(金) 14:53:23.00 ID:apyY2YgH0
  
 「ちひろさん!」 
  
 『プロデューサーさん?』 
  
6: ◆auvPFY1.jw[saga sage]
2013/04/26(金) 14:54:17.19 ID:apyY2YgH0
  
 連れて行ってもらった先は、少し値の張るバーだった。 
  
 ちひろさんは、こういうお店も知っているのか。 
 こういうところに、1人で来るのだろうか。 
7: ◆auvPFY1.jw[saga sage]
2013/04/26(金) 14:55:08.03 ID:apyY2YgH0
  
 ほどよく頬の紅潮を感じていたぼくは、すぐに家に戻った。 
  
 別れ際のあの一言。期待をしてもいいのだろうか。 
 好意を抱いてくれなくても、きっと、悪印象ではないだろう。 
8: ◆auvPFY1.jw[saga sage]
2013/04/26(金) 14:55:44.87 ID:apyY2YgH0
  
 翌日、ぼくは担当アイドルに事情を話した。 
  
 すると、快く承諾をしてくれて、アドバイスをくれた。 
 デートに行く服がないのだ、と伝えると、笑われてしまった。 
9: ◆auvPFY1.jw[saga sage]
2013/04/26(金) 14:56:11.32 ID:apyY2YgH0
  
 美容室というのは、どうしてこうきらびやかなのだろう。 
  
 もっと、床屋のように落ち着いていてもいいではないか。 
 背よりずっと高い鏡に映されるぼくは、少しわくわくしていた。 
10: ◆auvPFY1.jw[saga sage]
2013/04/26(金) 14:56:39.38 ID:apyY2YgH0
  
 1dayのコンタクトレンズだったので、なかなかに値が張った。 
 さらにぼくは乱視だったので、助長する原因だった。 
 だが、これでメガネともおさらばだ。 
  
11: ◆auvPFY1.jw[saga sage]
2013/04/26(金) 14:57:19.01 ID:apyY2YgH0
  
 そして、ようやく待ちに待った日曜日がきた。 
  
 女性と私的な用事で肩を並べ歩くことなど、ぼくは殆ど経験がない。 
 ぼくは早朝に起床し、インターネットで情報を集めた。 
12: ◆auvPFY1.jw[saga sage]
2013/04/26(金) 14:57:48.69 ID:apyY2YgH0
  
 「ちひろさん、お待たせしてすみません」 
  
 『…プロデューサーさん?メガネはしていないんですか』 
  
13: ◆auvPFY1.jw[saga sage]
2013/04/26(金) 14:58:15.06 ID:apyY2YgH0
  
 『本当におもしろかったです。あのシーンには、涙が出そうでした』 
  
 謝るのは、ぼくの方だろう。 
 映画の内容など覚えていないのだから。 
14: ◆auvPFY1.jw[saga sage]
2013/04/26(金) 14:58:49.64 ID:apyY2YgH0
  
 今度は、ぼくの提案した店に行くことになった。 
  
 言うなれば、隠れ家的雰囲気、というのだろうか。 
 入るのははじめてだったが、その内装には目を奪われた。 
15: ◆auvPFY1.jw[saga sage]
2013/04/26(金) 14:59:23.63 ID:apyY2YgH0
  
 ひと通り今日のデートへの意気込みを伝えていた。 
  
 そうだったんですか。と彼女は目をまるくした。 
 そして、ちひろさんに酒のせいではない頬の紅潮が見て取れた。 
16: ◆auvPFY1.jw[saga sage]
2013/04/26(金) 14:59:49.79 ID:apyY2YgH0
  
 それから3日経った水曜日のことだ。 
  
 あのデートの後から、ぼくはちひろさんと話していない。 
 互いに忙しく、時間がとれなかったのだ。 
17: ◆auvPFY1.jw[saga sage]
2013/04/26(金) 15:00:33.52 ID:apyY2YgH0
  
 以前より、ちひろさんの態度はさらに軟化していた。 
  
 交流を深めた結果もあったのだろう。 
 けれど、どこかその両肩は落ち着いていない。 
18: ◆auvPFY1.jw[saga sage]
2013/04/26(金) 15:00:59.68 ID:apyY2YgH0
  
 そこから土曜日までもちひろさんと話さなかったが、満足していた。 
  
 ぼくは、前述の仕事の企画のため、朝の11時には営業に向かった。 
 担当アイドルの名を伝え、企画の再確認などを行った。 
19: ◆auvPFY1.jw[saga sage]
2013/04/26(金) 15:01:28.28 ID:apyY2YgH0
  
 『それでは、すみません。失礼します、社長』 
  
 ちひろさんはそう挨拶をし、ぼくと共に事務所を出た。 
 これからのことで頭がいっぱいだ。 
20: ◆auvPFY1.jw[saga sage]
2013/04/26(金) 15:02:05.56 ID:apyY2YgH0
  
 小さなネックレスだった。 
  
 1万円くらいのネックレスで、ハート型をしていた。 
 彼女は愛でるようにそれを見て、ぼくに気がついた。 
21: ◆auvPFY1.jw[saga sage]
2013/04/26(金) 15:02:31.81 ID:apyY2YgH0
  
 『今日は私が出します。これだけは、譲りませんから』 
  
 彼女はちょっと困ったような表情で、ぼくにそう告げた。 
 ネックレスのことなら、気にしなくてもいいのに。 
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