過去ログ - 佐久間まゆ「いつもあの子がそばにいる」
1- 20
1:aho ◆Ye3lmuJlrA[sage]
2013/12/16(月) 21:34:08.36 ID:pFDECU7w0
「あ、あの子……まゆさんのこと、好き、って……」

 佐久間まゆが白坂小梅にそう告白されたのは、事務所に帰る途中の車内でのことだ。
 恥ずかしがり屋のプロデューサーが助手席に乗せてくれなかったので、まゆは小梅と一緒に後部座席に座っていた。
 運転する後姿も卒倒しそうなほど素敵なプロデューサーにうっとりしていたら、小梅にちょいちょいと袖を引かれて囁くように告白されたのである。

「……えっと」

 どう返したものか、まゆは困ってしまう。
 何かを期待するようにこちらを見ている白坂小梅は、同じ事務所のアイドル仲間だ。長い前髪で顔の右半分が隠れている可愛らしい女の子で、小柄で痩せっぽちな体と色白な肌から、少々虚弱にも見える。
 しかしそんな外見に反して趣味はホラー映画鑑賞であり、特に血やら臓物やら脳みそやらが盛大に飛び出るスプラッタな類のものを大層好んでいたりする。
 事務所に入ったのが同時期だったためそれなりに仲は良いつもりだが、怖い話の類があまり好きではないまゆとしては、少々触れたくない部分があるのも事実だ。
 小梅に関するある噂については、特に。

「……小梅ちゃん? あの子、って言うと……その、どの子かしら?」
「あの子……だよ?」

 小梅の視線が、まゆからほんの少しだけずれる。
 いるのだろうか。
 後ろに。

「……あの子が、そういうこと言うの、珍しい……」
「そ、そうなの……」

 嬉しそうに微笑む小梅とは逆に、まゆの方は背筋が震えてきた。
 他の皆もいる車内だからまだ良かったものの、もしも小梅と二人きりのときにこんなことを言われたら間違いなく悲鳴を上げていたと思う。

「うん……良かった」

 小梅は満足そうに頷くと、また前を向く。
 それ以上は特に何も言ってこない。まゆの方でも自分から突っ込んだことを訊く気にはなれず、不安を残しつつもまたプロデューサー鑑賞に戻ったのだった。
 ちょっと怖い気分を味わったのはそのときだけで、その後しばらく、特に変わったことは起こらなかったのだが。

SSWiki : ss.vip2ch.com



2:aho ◆Ye3lmuJlrA[sage]
2013/12/16(月) 21:35:09.39 ID:pFDECU7w0
 ◆

「最近、心霊現象が続いて夜眠れないんです……」
「心霊現象……」
「ですか……」
以下略



3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/12/16(月) 21:35:44.09 ID:cBChZQeN0
あの子かと思ったらあの子だった
支援


4:aho ◆Ye3lmuJlrA[sage]
2013/12/16(月) 21:35:54.74 ID:pFDECU7w0
「ただいま帰りましたぁ」

 いつも通りにそう呟きながら玄関のドアを開けると、リビングに続く廊下の壁と天井一面に隙間なく貼られたプロデューサーの写真と自作ポスターの数々が出迎えてくれた。
 残念ながら目線がこちらを向いている写真は極少数だが、まゆとしてはそれでも十分満足である。写真越しにプロデューサーの存在を感じて陶然とした気分に浸りながら、ゆっくりとリビングに向かう。
 いちいち説明するまでもないことだが、リビングの壁と天井もプロデューサーの写真とポスターで一杯だ。常に想い人の存在を意識しながら生活出来る最高の部屋なのだ。
以下略



5:aho ◆Ye3lmuJlrA[sage]
2013/12/16(月) 21:36:28.07 ID:pFDECU7w0
 それはこっそり録音したプロデューサーの音声の中から、特にお気に入りのものをお気に入りの順番で編集した特製の音声ファイルだった。これを聞きながらだと学校の勉強も趣味の裁縫や料理も驚くほど捗るのだ。
 愛の力以外の何物でもない。

『元気か、まゆ』
「うふふ……♪」
以下略



6:aho ◆Ye3lmuJlrA[sage]
2013/12/16(月) 21:37:24.67 ID:pFDECU7w0
「……という、とっても怖い出来事が……あら、お二人ともそんなにコーヒーが苦かったんですか?」
「いえね……」
「コーヒーのせいじゃなくて……」

 何かげんなりしたような顔の二人にまゆが首を傾げると、歌鈴が躊躇いがちに手を挙げた。
以下略



7:aho ◆Ye3lmuJlrA[sage]
2013/12/16(月) 21:38:02.88 ID:pFDECU7w0
「ともかく、それですっかり怖くなっちゃったわけね」
「はい……だから、是非とも歌鈴ちゃんに対処をお願いしたくて」
「え……た、対処ってなんですか?」

 歌鈴がぎょっとしたように言う。
以下略



8:aho ◆Ye3lmuJlrA[sage]
2013/12/16(月) 21:38:46.48 ID:pFDECU7w0
「あ、あの!」

 ちょっと強い口調で割って入り、

「いえ、別にそこまでしてほしいわけではなくて……ただ、遠ざけてくれるだけで……」
以下略



9:aho ◆Ye3lmuJlrA[sage]
2013/12/16(月) 21:39:41.51 ID:pFDECU7w0
「……かわいそうだとは思ったんですけど……」
「まあ、何が起きてるのかもよく分からない状況だと、不用意なことは言えないわよね……呪われないとも限らないし」

 礼子は慰めるように言った後、「それで」と訊いてくる。

以下略



10:aho ◆Ye3lmuJlrA[sage]
2013/12/16(月) 21:40:39.93 ID:pFDECU7w0
「やっぱり、私自身がちゃんと……やめてほしいって、小梅ちゃんに伝えなければいけないんですよね」
「それなんですけど、あの」

 歌鈴が気遣うように、遠慮がちに提案する。

以下略



11:aho ◆Ye3lmuJlrA[sage]
2013/12/16(月) 21:41:29.68 ID:pFDECU7w0
「でも、私は……」
「どうしても幽霊が怖い。だったわね?」
「……はい」
「そう……ところで、歌鈴ちゃん」
「はひっ!? な、なんでつか!?」
以下略



12:aho ◆Ye3lmuJlrA[sage]
2013/12/16(月) 21:42:23.85 ID:pFDECU7w0
「……実際怖い目に遭っていて、元々怖い話の類が苦手なら、幽霊っていう記号やネガティブなイメージに引っ張られて思考が止まっちゃうのも分かるわ。仕方のないことよ」

 でもね、と礼子は言う。

「もしもそうなったら……恐怖や不安で思考が止まりそうになったら、一度深呼吸して、思い出してあげて。まゆちゃんがそこまで悩んで気遣って、どうしても守ってあげたかった白坂小梅ちゃんが、どんな女の子なのかを。そして、その子のお友達のことを」
以下略



13:aho ◆Ye3lmuJlrA[sage]
2013/12/16(月) 21:43:35.26 ID:pFDECU7w0
「……大丈夫ですよね、きっと」
「心配要らないわよ。元々、危険なことなんて一つもないんだから」

 まゆが去っていった方を気遣わしげに見る歌鈴の隣で、礼子は素っ気なく答えてコーヒーを啜る。

以下略



14:aho ◆Ye3lmuJlrA[sage]
2013/12/16(月) 21:44:46.69 ID:pFDECU7w0
「でも、礼子さんはやっぱり凄いですね。幽霊なんて常識外れの話でも、ちゃんと冷静に話を聞いてあげて、的確なアドバイスまで」
「ん……ああ、まあね」

 礼子は冷めたコーヒーを啜りながら、ぽつりと

以下略



15:aho ◆Ye3lmuJlrA[sage]
2013/12/16(月) 21:46:00.71 ID:pFDECU7w0

 ◆

 ちょうどオフが重なる日を見計らって、まゆは小梅を自分の部屋へと誘った。
 お昼時に呼び鈴が鳴ったので玄関の扉を開けると、いつも通り両手をパーカーの袖で隠した小梅が、ちょこんと立っていた。
以下略



16:aho ◆Ye3lmuJlrA[sage]
2013/12/16(月) 21:47:03.34 ID:pFDECU7w0
「じゃあ、音声や動画が増えていたのは?」
「晶葉さんや泉さんがやってるの、み、見よう見まねで……」
「凄いのねえ……ぬいぐるみが増えていたのは?」
「海さんや、まゆさんの真似した、って……」
「写真の顔が川島さんに変わっていたのは……」
以下略



17:aho ◆Ye3lmuJlrA[sage]
2013/12/16(月) 21:47:50.64 ID:pFDECU7w0
「ねぇ、小梅ちゃん。小梅ちゃんのお友達の……あの子、は、どうして私のことを好きになってくれたの?」
「ど、どうして……? え、えっと……」

 小梅が何か躊躇っているようだったので、まゆは安心させるように微笑みかけた。

以下略



18:aho ◆Ye3lmuJlrA[sage]
2013/12/16(月) 21:48:32.62 ID:pFDECU7w0
「私もね、自分の気持ちが上手く伝えられないの」

 まゆはそっと自分の胸に手を添える。
 あの人のことを考えるだけで激しく高鳴るこの胸の想い。
 今はどう考えても、ちゃんと伝わっているとは思えない。
以下略



19:aho ◆Ye3lmuJlrA[sage]
2013/12/16(月) 21:50:26.12 ID:pFDECU7w0
 しばらく泣き続けた小梅が「も、もう大丈夫……」と気恥ずかしそうに言ったので、まゆは黙って体を離した。
 小梅はまだ少し赤い顔で、照れたように微笑む。

「な、泣いちゃって、ごめんなさい」
「いいのよ。もう一度言うけれど、本当にありがとう。二人の気持ち、とっても嬉しいわ」
以下略



20:aho ◆Ye3lmuJlrA[sage]
2013/12/16(月) 21:51:06.41 ID:pFDECU7w0
 ◆

「プロデューサーさん♪」

 人通りの多い休日の昼下がり、突然街中で後ろから声をかけられ、ぎくりとする。
以下略



21:aho ◆Ye3lmuJlrA[sage]
2013/12/16(月) 21:51:47.02 ID:pFDECU7w0
「あ、ひょっとしてぇ……」

 と、まゆがどこかねっとりした目でプロデューサーを見る。

「まゆがプロデューサーさんのこと尾行した……なんてお考えですか?」
以下略



30Res/46.78 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice