1:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/07(月) 00:10:07.89 ID:rVNZ4GiQo
真夜中だった。
どこからか、声が聞こえる。
切羽詰まったような、まるで泣く寸前のような、そんな女の子の声だった。
「待っててね」
声の主は私の手を握っている。
私は眠りに落ちていて、目を開けてその子の顔を見ることができない。
けれどその温もり、その声はとても懐かしくて、私の心を安らかに落ち着かせるものだった。
これは夢?
あなたは誰?
こんな真夜中に勝手に部屋に入ってきて、私の手を取って話しかけている、あなたは一体誰ですの?
「すぐに、向日葵の所にいくからね」
手から温もりが消える。
部屋は静寂を取り戻し、人の気配は消えた。
私の手は、少しだけ濡れていた。
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2:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/07(月) 00:11:21.33 ID:rVNZ4GiQo
〜
【前編】〈 Colorful Cookie 〉
3:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/07(月) 00:12:12.51 ID:rVNZ4GiQo
〜
「――それでは、今回はここまでにします。次の授業は今日やったところを少し復習してから、新しいところを進めていきましょう」
4:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/07(月) 00:12:53.62 ID:rVNZ4GiQo
〜
この高校へは電車で通っている。
5:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/07(月) 00:14:20.03 ID:rVNZ4GiQo
「あっ……」
ポケットの中の振動に気づいて、携帯電話を取り出す。今手に持っている小説を貸してくれた子からのメールだった。他愛のない内容でもこまめに連絡をくれる子で、家の方角は私と反対だがとても仲良くしてくれる。
6:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/07(月) 00:15:14.58 ID:rVNZ4GiQo
〜
「!」
7:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/07(月) 00:16:24.95 ID:rVNZ4GiQo
――こんな気まずそうな空気で話をしたいのではない。私はあの頃の櫻子と、昔のようなやりとりがしたいのだ。元気に満ち溢れた櫻子を、隣で見守るような……
今日偶然出会えたことを無下にしてはいけない。これはチャンスだ。
8:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/07(月) 00:16:53.40 ID:rVNZ4GiQo
「もう二月だねぇ」
「ええ、寒いですわね」
「雪もまだ溶けないの」
9:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/07(月) 00:18:00.37 ID:rVNZ4GiQo
「さ、櫻子に?」
「さっきお話したの。楓も大きくなったからお料理とかお菓子作りとかいっぱいお勉強して、櫻子おねえちゃんに作ってあげるねって」
「……!」
10:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/07(月) 00:18:52.08 ID:rVNZ4GiQo
〜
「あっ、ひま姉!」
11:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/07(月) 00:19:19.36 ID:rVNZ4GiQo
「今は何かやってたんですの?」
「え……っと、宿題」
「え!? あなたが自分から宿題!?」
12:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/07(月) 00:20:18.47 ID:rVNZ4GiQo
『櫻子ー! ごはんできたー!』
「あっ……うん! 今いくー」
「あらもうこんな時間……長居はしないって言ったのにごめんなさい。私そろそろ戻りますわ」
13:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/07(月) 00:21:22.09 ID:rVNZ4GiQo
〜
お菓子作りの材料などを買う行きつけのお店。
14:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/07(月) 00:21:50.37 ID:rVNZ4GiQo
〜
「2月14日……あっ」
15:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/07(月) 00:22:35.07 ID:rVNZ4GiQo
〜
「おいしい……!」
16:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/07(月) 00:23:48.30 ID:rVNZ4GiQo
数秒ののち櫻子は予定を確認するため、思い出したかのように携帯を取り出した。バイトも部活もない今の櫻子がそれでも予定を確認するのはもしかして先約がいるからではないだろうか……少しだけ心配になったところに口を出したのは花子ちゃんだった。
「櫻子はどうせ予定なんか何もないでしょ。久しぶりにひま姉とどこか行って来れば?」
17:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/07(月) 00:24:54.18 ID:rVNZ4GiQo
「あ、ありがとう……まさかOKされるとは……」
「な、なんだよ……そっちはわざわざこれ言うために来てくれたんでしょ?」
「そうなんですけど、当初の予定……あ、いえ……なんでもありませんわ」
18:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/07(月) 00:25:22.49 ID:rVNZ4GiQo
〜
2月12日、金曜日。
19:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/07(月) 00:25:59.08 ID:rVNZ4GiQo
別々の高校に進むことになるんだという実感が湧き始めたとき、「私がいなくても櫻子は大丈夫だろうか」とそれしか気にならなかった。
小さい頃からずっと一緒で、私は櫻子の世話を焼いてきた。勉強から身の回りの雑事から翌日の学校の準備まで、なかなかちゃんとできない櫻子を支えるのが私の使命とでもいうように誰に言われるでもなくやっていた。
20:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/07(月) 00:26:29.15 ID:rVNZ4GiQo
(……私にとって、櫻子って何なのかしら)
いつからこうなってしまったのか。私は櫻子のことしか考えられなくなっている。私からすればまだまだ子供っぽいあの子に安寧を求めるかのように縋りたいと思っている。
21:名無しNIPPER[sage saga]
2015/09/07(月) 00:27:08.26 ID:rVNZ4GiQo
櫻子を目の前にしていなければ、きっとこの気持ちはもっと早くに判明していたことと思う。たまたま中学までずっと一緒だったから見えてこなかっただけのことだ。私は最初の最初から……ずっと櫻子が好きなのだ。
心の戦いが終わってしまうと勝ち残った方が一気に幅を利かせるもので、私の行動・思考全てが「櫻子が好き」という前提に裏付けられていく。まだ否定したい気持ちが残っていないわけではないが、それを妙な納得が上回ってしまう。
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