過去ログ - 恒一「『ある年』の3年3組の追憶」
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2012/08/06(月) 21:00:54.35 ID:4DOG5YTr0
※注意 このSSは、以前投稿した同タイトルの改訂版です
誤字・脱字の修正の他、若干加筆してあります
人物造形や人間関係については、オリジナル要素を含んでいる他、
本編のネタバレ箇所もあるため、ご了承下さい
◆Introduction Kouichi Sakakibara
夜見山にやってきて二度目の春を迎えた3月某日、
ぼくは、夜見山北中学校を卒業した。
心配されていた肺のパンク、気胸も手術のおかげで再発も起こらず、
そして、あの合宿を最後を災厄も止まり、生き残った18名は誰一人欠けることなく、
無事に卒業式を終えられたのである。
かつて千曳さんが・・・いや、千曳“先生”がこう言っていた。
3組で起こった数々の忌まわしい出来事は、
洪水でどこがどのように水びたしになったのかが曖昧になってしまうように、
クラスのみんなは、誰が亡くなったかは覚えていても、
どのような惨劇が起きたのかを、もうほとんど覚えていない。
かく言うぼくも、桜木さんや久保寺先生がどうして死んだのか、
記憶があやふやになっており、
千曳先生から見せてもらった死因を加筆したノートを見せてもらっても、
漠然としか思い出せないのが現状だ。
それは、いつまでも恐ろしいトラウマが残るより、
ある意味ずっと幸せなことなのかもしれない。
けれども、その中でぼくと鳴はある二人の人物の死が、
今でも鮮烈なまでに記憶として残っている。
一人は今年の『死者』にして、ぼくがこの手で自ら死に還した怜子さん。
そしてもう一人は、誰よりもクラスのために災厄と闘い続け、
儚く散っていった赤沢さんだった。
卒業式を終えたぼくは、一度家に帰ると制服のまま再び家を出て、
紅月町にある古いお寺に向かった。そのお寺の中にある墓地・・・
そこに赤沢さんが眠っている。
「赤沢家之墓」と記されたそのお墓の前に、先客がいた。
鳴だった。
「見崎・・・?どうしてここに・・・?」
「榊原君もやっぱり来たんだ。私、赤沢さんに伝え・・・
ううん、謝らなければいけないことが、沢山あったから・・・」
「謝る」という鳴の言葉が少しひっかかったが、ぼくはお墓に水をかけると、
ここに来る途中で買ってきた新しい花に交換し、線香に火を付けた。
鳴の話によると、勅使河原もさっきまで来ていたらしく、
鳴と入れ替わりに墓地を後にしたらしい。
ほとんど燃え尽きた線香は、あいつがお供えしたものだろうか?
横の墓碑を見ると、赤沢和馬という名前の左隣に、
「赤沢泉美 享年十四歳」と真新しい墓銘が記されていた。
いつか東京へ行くことを夢見ていた赤沢さん。
その夢を叶えることもできず、短い生涯をあのような形で閉じるなんて・・・
おととし、怜子さんの葬儀で一度夜見山を訪れたことのあるぼくは、
夜見山川沿いの土手で、赤沢さんと出会った。
怜子さんを死に還したことで記憶の改竄がなくなり、
あの時の思い出が蘇ってきたのである。
短い間だったけど、確かにあの時ぼくと赤沢さんは
大切な人を失うという悲しみを共に抱えながら、心を通わせていたのだ。
けれど、ぼくはその大切な思い出を忘れてしまった。
「まったく・・・嫌になっちゃう・・・
嘘でもいいから『覚えているよ』くらい、言いなさいよ・・・」
「覚えていない」と赤沢さんに言った時の、彼女の悲しげな顔が、
そして僕の目の前で命の灯火が消えていった赤沢さんの姿が、
今でもまぶたに焼き付いて離れない。
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2012/08/06(月) 21:01:45.99 ID:4DOG5YTr0
赤沢さんが死んだ後に、ようやく記憶を取り戻したあの思い出。
でも、あまりにも遅すぎた。
どうしてあの時、思い出せなかったのだろう?
覚えていると言えなかったのだろう?
記憶が現象で消されたなんて、言い訳に過ぎない。
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2012/08/06(月) 21:04:00.65 ID:4DOG5YTr0
◆No.11 Yukari Sakuragi
4月26日、日曜日。
私と、風見君、赤沢さんの三人は夕見ヶ丘の市立病院へ向かっている。
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2012/08/06(月) 21:04:35.47 ID:4DOG5YTr0
風見智彦君。
まだ出会って二ヶ月も経ってないが、真面目でしっかり者の男の子だ。
ホームルームで委員長を選ぶ時に、私と風見君が選ばれた時は、
勅使河原君から、
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2012/08/06(月) 21:05:13.30 ID:4DOG5YTr0
当たり障りの無い言葉を選ぶのに必死で話が進まない私と風見君に対して、
赤沢さんはその後もズバズバと質問攻めにした。
赤沢さんとは、去年同じクラスになってからの大切な親友だ。
体育祭の時に一緒に撮ってもらった写真の笑顔のように、
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2012/08/06(月) 21:05:58.03 ID:4DOG5YTr0
面会時間が終わり、帰路についたその最中、
私たち三人は大切なことを忘れていたのに気がついた。
「しまった・・・、榊原君に『いないもの』の話をしていない!」
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2012/08/06(月) 21:06:37.70 ID:4DOG5YTr0
◆No.1 Izumi Akazawa
5月6日。大型連休、いわゆるゴールデンウィークが明けた初日。
まだ休みボケが残る中で、皆が会社や学校に重い足取りで向かうのに対し、
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2012/08/06(月) 21:07:08.98 ID:4DOG5YTr0
思い返せば一年半前。
家庭の事情で一つ屋根の上で暮らしていた、私の従兄の赤沢和馬。
幼い頃から、私が『おにぃ』と呼んで慕っていた彼は、
おととしの3年3組の対策係だった。
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2012/08/06(月) 21:08:05.42 ID:4DOG5YTr0
私が再び登校したのは、5月11日の月曜日。
治った途端、第二土曜で休日になってしまったため、
学校は10日ぶりのこととなった。
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2012/08/06(月) 21:09:08.29 ID:4DOG5YTr0
「ご、ごめんなさい。あなたのことじゃないの。
はっきり思い出せない、自分のふがいなさにね・・・」
「赤沢さん、あまり思い詰めても」
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2012/08/06(月) 21:10:36.46 ID:4DOG5YTr0
◆No.19 Junta Nakao
中間試験の日程が張り出され、クラスの空気が重くなるのが、
手に取るようによくわかった。
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2012/08/06(月) 21:11:45.23 ID:4DOG5YTr0
ところが、そんな俺が積み重ねてきた努力を全否定するような存在が、
今のクラスにはいるのだった。
勅使河原と風見の腐れ縁の話は、いつしか進学する高校の話になり、
勅使河原はその男にも、その話題を振った。
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2012/08/06(月) 21:12:46.76 ID:4DOG5YTr0
「天は二物を与えず」なんてことわざは、
恵まれない奴が思いついた、ひがみじゃないのかと時々思う。
赤沢さんは二物以上与えられているけど、別に嫌な思いをしたことは無いのに、
榊原に当てはめてみると、どうしても納得いかない。
俺が血のにじむような努力を重ねて得た物の何倍もの要素を、
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2012/08/06(月) 21:13:40.93 ID:4DOG5YTr0
桜木が死んだのは、そのわずか六日後だった。
中間試験も終わりに迫ったラストスパートの中、
母親が事故に遭ったという知らせを聞いた桜木は、
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2012/08/06(月) 21:14:10.90 ID:4DOG5YTr0
◆Interlude I Shoji Kubodera
こんな酷いことが、本当にあっていいのか?
信じられない惨状が、目の前で広がっていた。
16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/08/06(月) 21:14:58.10 ID:4DOG5YTr0
これから、我がクラスはこのような惨劇が、
来年の3月まで、立て続けに起きるのだろうか?
教え子が死ぬのをただ黙って見続けるのは、どうしても避けたい。
教師として、これほど辛く悲しいことはないからだ。
17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/08/06(月) 21:15:51.63 ID:4DOG5YTr0
◆No.8 Tomohiko Kazami
ゆかりが、死んだ。
18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/08/06(月) 21:16:25.17 ID:4DOG5YTr0
二日後、僕は学校を無断で欠席した。
そして僕は今、斎場に向かって自転車を走らせている。
カゴには通学カバンと、新聞紙で包んだチューリップの花束・・・
先月、榊原君のお見舞いに行った時に買った、
19:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/08/06(月) 21:17:09.89 ID:4DOG5YTr0
「これは・・・」
「は、はい。この場に相応しくないことは重々承知してますが、
どうしても・・・あ、本当にすみません」
20:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/08/06(月) 21:17:48.63 ID:4DOG5YTr0
天井も窓も、床も全てが深紅に染まっていた。
いや、それだけではない。空も地もありえない位、真っ赤な世界だった。
「ここはどこだ・・・」
21:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2012/08/06(月) 21:19:26.22 ID:4DOG5YTr0
◆No.2 Aya Ayano
桜木さんが亡くなった数日後のある日のこと、
私は学校をずる休みした。
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